提言・論考
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習近平政権の中国の国際秩序観とその特徴

はじめに

中国の習近平政権は、胡錦濤政権までの諸政策を部分的に継承しつつ、他面で新たな認識、政策を採用していった。これは、中国の国力の変容に応じたものであり、また新たな世界に対応したものであると同時に、新興大国としての中国が新たな世界に働きかけようとする試みであったということもできるだろう。

それでは具体的に習近平政権は、その世界観、秩序観、その対外戦略をどのように変容させてきたのか。この点については筆者自身の記したものも含めて日本でも多くの論考があるが1、ここでは2026年5月の米中首脳会談なども踏まえて改めてその内容と変容過程を整理してみたい。

1. 中国外交の基本原則

中国の対外認識や外交政策は、1949年10月以降、大きく変更してきた。東西冷戦や中ソ対立、そして米中国交正常化、冷戦終結とソ連の崩壊などによって、変容を重ねてきた。だが、そこには一定程度の連続性が認められる。

第一に、中国統一、領土の一体性、主権の重視という、国家としての、また中国としての正統性に関わる原則の維持である。中国は、ある意味で「中国」の範囲や内容を常に再定義しつつ、その「中国」を維持、変容していこうとする運動体である2。中国の国力に応じて中国の境界や内容が常に変容しながら、中国自身の「あるべき姿」が記憶とともに常に再定位されつつ正当化されていく。また、具体的な成果も重視される。戦前以来の国権回収運動は中華人民共和国建国後も継続され、国民党政権からの中国東南部の奪還、ダマンスキー島でのソ連に対する「勝利」、南ベトナムからの西沙諸島奪還、香港回帰、マカオ回帰などを通じて可視化されてきた。そして最後の対象は台湾だが、同時に尖閣諸島や南沙諸島の問題などもこうした国権回収の文脈の下に位置付けられている。

第二に、1950年代に採用された平和(友好)五原則がある。中国は、習近平政権の現在にあっても自らを発展途上国とする姿勢を崩さず、しばしば「最大の発展途上国」などと言われ、しばしば「発展(途上)大国」などとも言われる。中国が自らを発展途上国として規定することは、その国連中心主義の基礎でもある。中国は国連憲章を独自に解釈しながら、アメリカなどの先進国の秩序を不公正なものとして批判する。中国世界観は、世界を先進国と非先進国とに分けるものであり、自らを非先進国の、またグローバルサウスの代表だとする3。他方、一般的に平和(友好)五原則とは、領土・主権の相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉、平等互恵、平和共存を指す。習近平政権に至るまで、中国の指導者は基本的にこの原則を堅持しつつも、その時々に応じて、その内容を調整してきた。例えば相互内政不干渉については、中国がPKO大国になるのにつれて、一定の条件下で他国に人民解放軍を派遣可能な「創造性介入」などという言葉が用いられるようになった4。

第三に、1980年代初頭に採用された独立自主の外交方針もまた、習近平政権にまで継承されている外交政策の原則だ。この原則は中ソ間の同盟が多くの問題を生み出したことへの反省として提起されたものと理解される。北朝鮮については別途議論が必要だが、中国は現在に至っても同盟国を有していない。ロシアでさえも同盟国とはいえず、パートナー(夥伴)国という位置付けだ。なお、中国のパートナー(夥伴)国には明確な階層性があり、ロシアは中国にとっては最高位のパートナーとして位置付けられている。

このような歴史的原則は、上述のようにしばしば定義が調整されながら現在も用いられて続けている。また、諸原則の優先順位や用法は変容してきている。例えば、たとえロシアが最高位のパートナーとはいえ、多くの発展途上国が反対するロシアのウクライナ侵攻そのものには全面的な賛成はしない。そして、その時々の政権の政策とこれらの原則との関係性もある。アメリカに追いつくことを明確にした習近平政権にとっては、ロシアこそがアメリカを中心とするNATOに対抗する上で重要な存在であることから、たとえそのウクライナ侵攻に全面賛成できなくとも、ロシアのことを全体として支えるのである。

このほか各政権が採用する諸原則もある。継続するものもあれば、のち採用されなくなる原則もある。毛沢東時代の階級闘争理念に基づく革命外交は鄧小平時代の階級闘争放棄によって歴史へと変わり、鄧小平時代の「韜光養晦・有所作為」は胡錦濤政権期まで使用されながら、習近平政権期には「奮発有為」は使われたことがあるものの、韜光養晦・有所作為は使われなくなった5。

2. 習近平政権期における国際秩序認識の変容 ⑴ 2012年から2017年

2012年秋に習近平政権が成立したが、これにより国際秩序認識や対外政策の全面転換が生じたわけではない。前述のように「韜光養晦・有所作為」などは後退したが、例えば「新型大国関係」などは2012年の習近平政権成立以前から胡錦濤政権が用いていた。だが、これも習近平が国家副主席として訪米した際に述べた言葉などを踏まえたものでもあった6。

他方、習近平は、「中国の夢」であるとか、「国家安全観」などといった基本政策を相次いで打ち出した。だが、これらは米中関係が新型大国関係の下にあるという前提で用いられていた。ところが、オバマ政権末期に南シナ海問題、サイバー攻撃問題などで米中関係が緊張していくことで新型大国関係に基づく関係性の維持が次第に厳しくなっていった。オバマ政権末期に米中関係が次第に緊張を帯びる中で、習近平政権は明確にその国際秩序、対外政策を修正したことを内外により明確に示すようになったと考えられる。

国際秩序観に関わる中国からの象徴的な対外発信の一つが2016年7月6日、チャタムハウスにおける中国の外交官である傅瑩の講演だ。傅瑩は自らの発言が習近平の意向であることを示唆しつつ次のような内容を述べた。傅瑩はまず、パックスアメリカーナとされる既存の世界秩序(world order)には三つの柱があるとして次のように述べる7。

This order, as I see, contains three pillars: first, American or western values; second, the US led military alignment; third, the UN and its institutions. This world order has its roots in the history of international politics and also has its modern contributions. The United States, as the leader for this order system has also reaped great benefit from its leadership role.

そしてこの秩序を中国はどう認識するのか。傅瑩は明確に、"China is never fully embraced to this order system"と、中国は決してこの秩序をそのまま受け入れるわけではないと留保をつける。そして、二つの柱、すなわちUS-led military allianceもthe western valuesもともに中国は支持できないとする。その上で、次のように中国が支持できるものを述べる。

What you hear from the Chinese leaders is that, China is part of the international order. One need to note that the term used here is "international order" and what it refers to is the UN and its institutions, including the principles of international law.

つまり、三つ目の柱であるthe UN and its institutions, including the principles of international lawについては支持できるとする。さらに傅瑩はworld orderというパックスアメリカーナの代名詞を否定し、international orderという用語を提起する。そのinternational orderの中核には国連(憲章)があり、それを基礎に新型国際関係を位置付けるというのが習近平政権の対外方針であった8。新型国際関係という言葉は経済協力を基礎にウィンウィンの関係を世界各国と築き、それを運命共同体へと昇華させようとするもので、2015年9月に習近平が国連で提起したものだとされている9。

2016年7月、南シナ海をめぐって国連常設仲裁裁判所の裁決が出ると、中国はこれに強く反発した。それを懸念したアメリカのスーザン・ライス大統領補佐官が訪中して習近平と会見した。この時習近平は"When China grows strong, it will never seek hegemony. China does not intend to challenge the current international order or rules either."と語ったとされる10。ここで習近平は、world orderではなく、アメリカの秩序を批判する用語としてのinternational orderを用いた。だが、アメリカのスーザン・ライス大統領補佐官はこの語義をめぐる傅瑩のチャタムハウス演説を知らなかったためか、特段習近平国家主席には反論しなかったようである。

2017年1月、第1期トランプ政権が発足し、またアメリカの対中政策が厳しさを増す中で、習近平政権が第19回党大会にて2期目に入ることになった。その党大会での習近平の演説では、2049年に中華民族の復興の夢が実現するなどとし、事実上アメリカに追いつくと理解できることを述べ、2035年を中間目標とした。また、前述の新型国際関係をもあらためて提起した。これこそが習近平政権の対外政策において最も優先順位が高い政策理念であり、前述の平和友好五原則や独立自主の原則が合わせて用いられることになったのである。そして、2018年の年始に向けた演説で、習近平国家主席は中国自身のことを「責任ある大国」とした上で、「世界和平の建設者、グローバルな発展の後見者、国際秩序の擁護者」だとした11。ここでも世界秩序ではなく、国際秩序が使われたのである。

3. 習近平政権期における国際秩序認識の変容 ⑵ 2018年―

2017年の第19回党大会の習近平演説で提起された方向性はその後も現在に至るも基本的に維持されている。中国は基本的に世界が多極化し、アメリカの「覇権」が動揺、衰退しており、アメリカを中心とする先進国主導の秩序は後退し、中国が主導する非先進国の秩序が優勢になっていると見なす。2020年から世界に広がった新型肺炎感染症の感染拡大の過程でも、世界的に対中感情が悪化する中で、中国自身は内外の苦境への対処を「戦争」と位置付け、国内で国家の安全を強化しながら、社会への管理統制を強化し、自らの正当性を唱えた。ただ、中国はアメリカを批判しつつも、アメリカとの衝突は望まず、あくまでも対話と協調を求めていたことも確かである。

2021年1月にアメリカでは民主党のバイデン政権が成立するが、同月、習近平は『求是』に「共同して人類運命共同体を打ち立てよう(共同構建人類命運共同体)」という文章を発表した12。ここで習近平は、オバマ政権の時に成立していたと中国の考える新型大国関係を復活させることを希望した。オバマ政権においてバイデンが副大統領だったことも背景にあろう。他方、習近平は『求是』の文章で次のように述べる。

数百年前のこと、中国の国内総生産が世界の30%を占めるほど強大であった時期でさえ、対外的な侵略や拡張を行ったことは一度もなかった。1840年のアヘン戦争後の100年余りの間、中国は度重なる侵略と蹂躙の被害に遭い、戦禍と動乱の苦しみを味わった。(略)中国が貧困と弱体化に苦しむ国から世界第2位の経済大国へと発展したのは、対外的な軍事拡張や植民地略奪によるものではなく、人民の勤勉さと平和の維持によるものである。中国は今後も変わらず平和的発展の道を歩み続ける。中国がどれほど発展しようとも、中国は決して覇権を求めず、決して拡張せず、決して勢力圏を求めない。

中国は絶対に覇権を求めないなどというが、これは逆に言えば、アメリカに対して覇権などという言葉を用いる可能性を示唆している。2023年2月中国外交部や新華社が「アメリカの覇権覇道覇凌およびその危害」という報告書を公式に発表したほどである13。

だが、2021年1月の『求是』の習近平の文章は、全体としては従来の習近平政権の世界認識や対外政策を踏襲していたものの、アメリカに対しては新大国間関係の再構築を求めていた。しかし、バイデン政権はオバマ政権末期以降の対中政策の変容を踏まえた政権であり、決して新型大国関係に類する、対中関係が緊張する以前のオバマ政権の政策を復活させる用意はなかった14。結局のところ、バイデン政権下の米中関係は、「競争(competition)」と表現され、ただし「衝突しない」、「(気候変動などで)協力すべきは協力する」、「関係を管理する」などと言った言葉で整理された15。これは米中関係の新たな「かたち」であったが、「衝突しない」などと言った言葉は新型大国関係の用語が継承されたと見ることもできる。

2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻すると、そのロシア支援を理由に特に先進国からの中国批判が強まった。すでに、新型肺炎感染症をめぐる問題で中国批判が強まっていたから、中国と先進国との関係は次第に緊張を孕むものとなった。また、ロシアに対する制裁に日本や韓国が加わり、西太平洋のアメリカの同盟国、同志国とNATOなどとの連携が強化されると、中国はいっそうロシアとの関係を強固にしていった。冷戦という言葉を使わないまでも、中国から見れば先進国対非先進国という構図が一層明確になったのである。このような傾向は、2022年秋以降の習近平政権の三期目にいっそう顕著になっていったと言える。つまり、新型肺炎感染症やロシアのウクライナ侵攻によって中国が従来進めていた対外政策が加速されたということになろう。

だが、中国の世界認識が世界から受け入れられ、またその政策が順調に進んだわけではない。ロシアからの脅威に晒されるバルト三国や東欧諸国からの中国批判、また世界的に中国への過度な経済依存を問題視する声が高まった。また、中国自身が途上国の一員と認識していても、2023年1月にインドが主宰したグローバルサウスサミットに招聘されないということもあった。中国は当初、このグローバルサウスという西側発の用語を用いるのを嫌ったが、多くの途上国の首脳がこの言葉を用いるのを受けて、「全球南方(グローバルサウス)」という用語を公式に使用することにし、かつその内容を途上国と同義だとして、中国自身をグローバルサウスの一員と称するようになったのだった16。

2025年1月の第二次トランプ政権の成立は中国に新たな機会をもたらした。確かに、トランプ政権は予測可能性が低く、バイデン政権下で形成された米中関係の「かたち」が一度は失われることにもなった。実際、トランプ政権は関税問題にしても、また先端技術をめぐる問題にしても、中国を含む諸外国に厳しい条件を突きつけた。しかし、トランプ政権は途上国などに対するUSAIDの予算を打ち切り、また中国の人権問題を指摘してきたRFAへの支援を取りやめるなど、中国にとっては歓迎すべき政策も採用していた。

他方で、世界の対米認識が悪化する中で対中世論は好転し17、先進国を含む世界各国の首脳もアメリカとの関係が緊張していることを念頭に、次第に中国との関係を調整し始めたのだった。その中で、アメリカも中国のレアアースなどを念頭に政策を調整し始めた。特に重要であったのは、2025年秋のAPECに際して実施された釜山での米中首脳会談だった。そこで米中両国は経済通商問題のこれ以上の悪化を防ぎ、関係を管理する方向へと大きく舵を切った。その後、外交国防、通商貿易などの面で閣僚級会合が積み重ねられ、 2026年5月の北京での米中首脳会談の基礎を成した。「建設的で戦略的な安定に基づく関係」という言葉はその帰結であり、第二次トランプ政権下における米中関係の「かたち」を示すものだ。ここでは、この「かたち」を崩すものがあるとすれば台湾だというように、冒頭で述べた国家の統一の論理も改めて強調され、またイラン問題についての話し合いがあったように途上国の代表としての振る舞いもある。だが中国外交にとってのプライオリティはアメリカに置かれている。

このように対米関係を調整しながら、習近平政権は2010年以来の世界認識、秩序観、対外政策理念を維持している。中国からすれば、これらの世界認識、秩序観、対外政策理念を壊すものがあるとすれば、それは米中関係だということであろう。

おわりに

本稿は、習近平政権がその世界観、秩序観、その対外戦略をどのように変容させてきたのかということを、2026年5月の米中首脳会談なども踏まえて検討することにあった。

その検討結果を踏まえれば、この課題に対する回答は次のようになるだろう。第一に、習近平政権は胡錦濤政権の世界認識、秩序観、対外政策理念を基本的に継承しつつ、いくつかの面で大きく転換させた。特に自らが先進国とは異なる秩序を形成するとしたこと、また韜光養晦という言葉を使わず、アメリカに追いつき追い越すことを明確にしたことにあろう。この方向性を維持、遂行するために、現実に対応してアメリカとの関係を管理しようとする姿が看取できたであろう。

第二に、習近平政権が描き出した世界認識、秩序観、対外政策理念は次のようなものである。①アメリカを中心とする秩序に明確に反対し、中国自身は国連憲章を基礎にした秩序を構想し、その国連憲章を具体化したものを新型国際関係の実現を考えている。この新型国際関係は「経済」を軸にした関係性であり、それがウィンウィン、運命共同体へと昇華していくとしている。②中国は、世界を多極化の時代にあり、中国もまたその中の極だと認識しているが、この100年に一度の変局にあって、世界の対立軸は「先進国 vs 非先進国」にあり、中国は非先進国側の代表だというのが自己認識である。

なお、本稿では多くを論じなかったが、習近平政権では「台湾」の重要性が益々増加している。2016年の蔡英文政権成立から方針を転換し、特に2024年5月の頼清徳政権の成立に危機感を募らせている。もし、2028年1月に頼総統が二期目に入り、民進党政権が四期続くようなことがあれば習近平政権としては座視できない事態となる可能性もある。

最後に、本稿で考察した習近平政権の世界観、秩序観、その対外戦略を踏まえた日本の位置付けについて触れておきたい。日本については、日本が先進国である上、アメリカの秩序を支えるアメリカの同盟国であること、また日本との経済関係が希薄化し、さらに日本と台湾の民進党政権との関係が緊密であることなどから、中国から見て構造的に「敵対的」な存在となる。中国国内においても、国家の安全が強調されるにつれて、対日感情も急速に悪化し、それが中国自身の政策転換をいっそう難しくしているということになろう。その点で、今後たとえ表面的な関係の修正があったとしても、日本に対する厳しい姿勢は構造的に変わらないだろう。

(川島真 東京大学教授)

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