提言・論考
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中国の日本企業のエンティティリスト掲載をどう考えるか
―「新型軍国主義・日本」の提唱と域外法制の積極的運用―

本稿は、中国による日本企業のエンティティリスト掲載を、単なる個別企業への制裁措置としてではなく、中国の対外経済に関する行動が、通商ルールに明らかに違反する「経済的威圧」から通商ルールが認める「安全保障例外に沿った域外適用法制」への移行過程として捉える見方を提唱したい。従来、中国は日本に対して、WTOの求める最恵国待遇に明らかに違反する経済的威圧行為を取ることで自国の意思を通そうとするものの、安全保障上の日本との関係を明確に対立と位置づけることを避け、曖昧にすることにメリットを見出す戦略を取っていたと思われる。

1.経済的威圧

経済的威圧行為は、通商ルール上違反となるリスクはあるものの、安全保障上の曖昧戦略を堅持するためのリスク、コストとして意義を見出していた可能性がある。実際、初期の日本への経済的威圧行為である2012年の日本へのレアアースへの輸出規制については、日本政府がWTOに提訴した結果日本の主張が認められ、中国は輸出規制の是正を求められた。さらに、日本企業は中国産レアアースからの分散化を進め、威圧行為の手段としての効力を一時失っていた。こうしたコストがあるにもかかわらず、日本に対しては、ALPS処理水の排出に対する水産物の輸入規制、2025年の高市総理・台湾有事発言に続く、観光、留学、航空便、エンターテインメントへの規制を行い、2026年1月レアアースの輸出管理などを、政治的なイシューと絡めて、圧力として用いてきた。さらに、2026年2月には、日本企業および大学20社をエンティティリストに掲載し、さらに別の日本企業および大学20社を注視リストに掲載した。

また、北朝鮮へのミサイル脅威に対応するための、米国は韓国にTHAAD配備を正式に発表すると、中国は強く反発し、経済的威圧行為をとった。韓国向けの団体旅行の制限、THAAD配備用地を提供したロッテに対しては、中国国内のロッテマートに対し、消防・安全検査などを理由に営業停止を命令し、韓国コンテンツの制限、検査・許認可の強化をおこなった。こうしたサービスの輸出入への制限は、他国と差別禁じる最恵国待遇に違反し、特定国企業に検査・許可の強化は、SPSS協定違反である。しかし、韓国はWTOへの提訴を行わなかった。

同様に、オーストラリア政府が2020年にCOVIDの起源を中国のラボとする主張に対する国際的な調査をもとめた事に対し、大麦、ワインに対して、アンチダンピング、相殺関税などのかたちで高関税が課され、木材、石炭、綿花、ロブスターに対し、非公式な輸入停止や通関の遅れを実施した。オーストラリアは、大麦(紛争番号DS598、以下同様)およびワイン(紛争番号DS602)について、その輸入規制がWTOが違反であると提訴した。2023年に、豪中関係の改善、およびCPTPPへの参加指示を求める意図もあり、中国は輸入規制を解除し、オーストラリアはWTOへの提訴を取り下げている。また、2021年に首都ヴィリニュスに「台湾代表処」という名称で台湾の代表機関の設置を認めたリトアニアに対し、同様の経済的威圧を行った。リトアニア製品の通関を滞らせ、酒類、牛肉、乳製品、木材、泥炭に対して輸入禁止を行い、2022年のリトアニアの対中貿易は80%減少したとEUは指摘している。この行為を、欧州委員会はWTOに提訴している(DS610)。

中国は、自らの供給者・購買者としての高いシェアをもつ経済的な力を、政治的イシューと絡めて行使する行為を断続的に続けている。現在のところ、大国であり、軍事的に明確に対立するアメリカに経済的威圧を発動することはほぼなく、EU、日本、オーストラリア、韓国およびASEANなどのミドルパワーおよび近隣国を対象に行ってきている。これは、安全保障例外が認められない限りは、全てのメンバー国に同等の最恵国待遇を求めるWTOの原則に明らかに反している。そして、WTOに提訴された最終判断が出たケースでは、提訴側の主張が認められてきている。

これは、通商ルール上はリスクを取ることで、安全保障上明確な対立軸を設定することを避けようとしてきたからではないか、というのが、筆者の推論である。しかし、日本企業をエンティティリストに掲載することは、安全保障上の懸念を制度化された法的措置として明示するものであり、日中関係の性格を変化させる可能性がある。

2.域外適用法制:法化する対外制裁

この変化は、2021年前後から進んだ中国の「域外適用法制」の整備による準備が整っていた環境で、日本政府の台湾有事発言、武器輸出解禁などの動きが起きたことへの反応と考えられる。

他国が安全保障上の脅威となる行為を取る場合、自国の法制度を自国域外に適用する、という域外適用は、アメリカおよび欧州がもつ制度である。これは、現在の通商ルールは、安全保障例外を設けることで、それ以外の経済取引は最恵国待遇を原則とする構造に沿ったものである。安全保障例外の範囲を自国で定め、他国がその安全保障上の脅威であると認定したときに、対外的に加える経済制裁などの行為を定める法制度の一部である。各国の制定する域外適用法制が、WTO整合的なのかは議論の余地があると思われるが、これについてはこれまで明確に争われたことはない。

中国は、この域外適用法制を第14次五か年計画の課題として掲げた。この五カ年計画の初年にあたる2021年には、中国はCPTPPへの加入申請を行う一方で、反制裁、反干渉、反域外適用に対応する法律上の道具箱を整備し始めた。経済的威圧は、WTOの最恵国待遇原則などとの関係で問題化しやすいが、安全保障例外の形式をとる域外適用法制は、米国や欧州の制度も参照しながら、より争いにくい法的枠組みとして構築されている。

中国の域外適用法制は、複数の制度によって構成されている。今回のエンティティリスト掲載の根拠となった①輸出管理法のほか、②信頼できないエンティティリスト規定、③外国法律・措置の不当な域外適用を阻止する弁法、④反外国制裁法、さらに⑤両用、すなわちデュアルユース品目の輸出管理条例、⑥反外国不当域外管轄条例などが整備されてきた。これらの制度の下では、輸出管理違反、国家安全・利益への脅威、テロ目的への利用などを理由として、特定の輸入業者やエンドユーザーを輸出管理リストに追加し、管理品目の取引禁止、取引制限、輸出停止などを命じることが可能になる。また、検証に協力しない企業などを注視リストに加え、包括許可申請の制限や例外適用からの排除といった不利益を与える仕組みも置かれている。

このような制度整備は、中国の対外行動が「法化」していることを示している。以下のような事例が増加している。たとえば2025年には、スイス企業と中国企業の取引が、米国による対中制裁の対象となり、スイス企業が取引を解除した。これに対し、契約上は和解プロセスが定められていたにもかかわらず、中国が反外国制裁法を根拠として契約上の仲裁条項に影響を与えるような司法を出している。また、半導体の知的財産権をめぐる中国と欧州の企業の紛争について、中国および欧州各国で提訴されているが、これについては最初に提訴された中国の裁判所の判断を優先するように求める禁訴令を中国は発出している。この行為をEUに提訴し、EU側の主張が認められた。

2023年7月に、欧州委員会は外国補助金規則の運用を始めた。これは、中国国内で補助金を受けた企業が欧州域内でのEU企業の買収や公共調達で不公正な競争力をもつこと是正することを目的としている。これに対し、中国は欧州側の不当な貿易投資障壁であると主張し、2026年5月には、反外国不当域外管轄条例を用いて、「不当な域外管轄権」と認定した。

経済摩擦が従来の関税・非関税措置の範囲を超え、国内法の域外適用を通じた応酬へ移っていることを示す。こうした一連の動きを鑑みるに、2026年2月の日本企業のエンティティリスト掲載は、単発の政治的反応ではなく、中国が自国の安全保障概念を通商関係に埋め込む動きの一部として理解する必要がある。

 3.曖昧かつ非対称であった日中経済摩擦から明確な安全保障例外へ

通商ルールの観点から見ると、これまでの日中摩擦は非対称的であった。WTO紛争解決手続においては、日本が中国を相手に、レアアース等の輸出制限をめぐるDS433、日本産高性能ステンレス継目無鋼管へのアンチダンピング税をめぐるDS454、日本産ステンレス製品へのアンチダンピング税をめぐるDS601を提起してきた。これに対し、中国が日本をWTOで正式に提訴した案件は確認されていない。つまり、従来は日本がWTOルールを用いて中国の措置を争う構図が中心であり、中国側は対日関係ではWTO提訴よりも、曖昧さを残した経済的圧力を活用してきたと整理できる。しかし、水産物の輸入規制、日本コンテンツの規制等といった、最恵国待遇違反が疑わしい事例が頻発しているのに対し、全てに対応しているわけではない、という意味で、日本側も消極的な姿勢を維持してきた。

今回の変化は、安全保障上の曖昧さを維持するために敢えてルール違反を行う経済的威圧から、安全保障例外を伴う域外適用措置へと重心が移る可能性を示している。経済的威圧であれば、WTOルール違反として問題提起し、最恵国待遇違反などを争う余地がある。しかし、エンティティリスト掲載のように安全保障上の措置として構成される場合、WTO上の異議申立ての難易度は上がると考えられる。WTOにおける安全保障例外は無制限ではないものの、RCEPなどの地域協定では自己判断的な安全保障例外が広く認められる余地もあり、どのルール枠組みで争うかが重要になる。

4.日本の選択肢

今後の日本は、中国の安全保障例外での運用への移行によって生じた変化に、うまく適応していくという視点が必要である。中国が安全保障上のリスクとなる存在を明示した結果、そうではない主体への経済的威圧の違法性がより明確になった。

この環境の変化のもとで、日本は、経済的威圧については積極的に対応するかどうかの決断についても、変化させるかどうかを決定する必要がある。新しい環境のもとでは、WTOルールに基づいて提訴し、経済的威圧そのものを国際通商ルール上の問題として位置づけることができる確率が高まったと考えられる。他方、エンティティリストについてはWTO上で直接争うことが難しいため、通商ルール、経済安全保障、外交上の対応を組み合わせた反応が必要になる。一方で、従来通りWTOルールの活用に消極的な姿勢を維持した場合、経済的威圧には制度的な制約がかからず、中国は自国の都合に応じてエンティティリストの継続、拡大、縮小を選択できる。さらに、域外適用の対象拡大や、将来的なWTOでの対日提訴につながる可能性もある。

以上から、本稿では、中国の対日措置を個別の報復や制裁としてのみ見るのではなく、中国の対外経済政策が安全保障化し、かつ法制度化されているという大きな流れの中で捉えるべきだと考える。日本にとって重要なのは、経済的威圧と安全保障例外に基づく域外適用措置を区別し、それぞれに対してどのルール、どの制度、どの外交的手段で対応するのかを明確にすることである。とくに、経済的威圧を放置すれば規範形成の機会を失う一方、安全保障例外を伴う措置については既存のWTOルールだけでは十分に対処できない可能性がある。そのため、WTO、RTA、FTA、そして有志国間の制度設計を通じて、経済安全保障時代の通商ルールを再構築することが課題となる。

(渡邉真理子 学習院大学教授)

参考文献 

渡邉真理子・加茂具樹・川島富士雄・川瀬剛志(2021)「中国のCPTPP参加意思表明の背景に関する考察」RIETI Policy Discussion Paper Series 21-P-016

渡邉真理子(2026)「「法化」する中国対日経済制裁」『外交』Vol.97  

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