提言・論考
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習近平体制の現状と第3期政権の展望

鈴木 隆

１．はじめに

周知のとおり、本年（2022年）秋、前回大会以来約5年ぶりに、中国共産党第20回全国代表大会（以下、20回党大会と略記）が開催される。今次大会では、現在の最高指導者である習近平が、2012年の党総書記就任以来、2期十年（第1期2012～2017年、第2期2017～2022年）の在位に続いて、3期目の政権発足を実現するとみられる。

だが、こうした予測に対し、本年3月頃から、中国の国内外の一部の識者から疑問の声が上がるようになった。1つのきっかけは、党の長老である朱鎔基（元国務院総理）が習近平の3期目続投に反対の意思を示したと、米国の『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙が伝えたことであった 1。本文を執筆中の8月初めの時点でも、日本のテレビ局のいくつかの報道番組で、出演・解説を行った専門家の見方は分かれている 2。

こうした見解の相違について、本稿ではまず、20回党大会後も、習近平が中国政治のトップの座に君臨し続ける可能性が高いことを改めて指摘する。これを踏まえて次に、20回党大会を契機とする中国政治の中長期的展望について、若干のシナリオプランニングを行う。さらに、国家目標である「中華民族の偉大な復興」について、習近平の政治的意志を確認する。

２．習近平体制の現状と政権続投の可能性

筆者の理解によれば、習近平時代の支配の正統性は、「豊かさ」「便利さ」「偉大さ」の3つが主な構成要素である 3。すなわち、2010年代以降、中国国民の多くは、一定の経済的利益を引き続き享受しているが、成長は鈍化し、2000年代までの所得・生活水準の急速な改善はもはや見込めない（豊かさ）。だが、これを補完するように、社会生活のIT化による生活の質・利便性の向上を通じて、身近な暮らしへの満足感は比較的高い（便利さ）。キャッシュレス決済やシェアリングエコノミー、食事の宅配サービスなどの普及、さらに、個人の行動管理を含む厳格な感染症対策は、その典型である。また、「一帯一路」構想にみられるように、国際社会における中国の存在感は、以前に比べて格段に高まった。このことは「中華民族の偉大な復興」の政権スローガンとも相まって、人々の国家的自尊心を高めている（偉大さ）。「豊かさ」から後二者への重点変化、とくに「便利さ」は、中低成長とポストコロナ時代の正統性の有力な支えであり、民心安定の1つのカギになりつつある。

ところが、2022年に入り、以下に見るように、これら3つを毀損する状況が目立つようになっている。

1つめに、「豊かさ」の現状をみれば、2020年以来のコロナ禍の一般的状況に加え、ゼロコロナ政策の弊害としての政策不況、とりわけ、若年層の雇用不安が深刻化している。当局の発表によれば、2021年の実質GDP成長率は8.1％を記録したが、四半期別では、第3四半期4.9％、第4四半期4.0％であり、鈍化の傾向が顕著である 4。2022年の第1四半期（1～3月）は、前年同期比4.8％で、中国政府の掲げる今年の成長目標（5.5％）は、達成困難と予想されている。この結果、若者の失業数が増加し、「中国版の就職氷河期世代」が生まれる可能性が高い（16～24歳の失業率18.4％、2022年4月時点） 5。むろん他国と同じく、中国でも、雇用情勢の悪化は社会不安に直結している。

2つめに、「便利さ」については、社会生活への十分な配慮を欠いたゼロコロナ政策への市民の不満が蓄積している。本年3月以降、オミクロン株の全国的流行に伴い、多くの都市でロックダウンが強行されたことは記憶に新しい。 2500万人以上の人口を擁し、経済活動の一大中心地である上海市でも、3月末から約2カ月間、都市封鎖が実施され、住民の怒りの声が高まった。習近平派の1人で、市のトップを務める李強（党中央政治局委員、市党委員会書記）も、批判の矢面に立たされた。李強は、李克強（国務院総理）の後任候補の1人として、20回党大会後の中央政治局常務委員への昇格が有力視されていたが、不透明な見通しとなった。最近では、李克強の後任候補として、習近平派とそれ以外のグループのいずれからも受けのいいバランス人材として、汪洋（全国政協主席、党内序列第4位）の存在感が増している。

3つめの「偉大さ」に関しては、本年2月末のロシアによるウクライナ侵攻後も、プーチン支持の従来的立場を変えない習近平指導部への国際社会からの批判の高まりと、それに連動した中国国内での懐疑的な国民心理の広がりが指摘できる。開戦当初、中国世論は概して反欧米・親ロシアの主張が優勢であったとされるが、戦闘の長期化と被害の拡大に伴い、そうした好戦的雰囲気は勢いを失っている。また、米国のピュー・リサーチ・センターが、6月に発表した調査結果によれば、欧米諸国や日本、東南アジアの計19カ国で、調査対象者の約7割が、中国に好意的な印象をもっていないと答えた 6。国際社会での国家的威信の低下が、多くの中国人のナショナルプライドを傷つけていることは間違いなかろう。

これら3つの状況により、最高指導者である習近平の権威は、明らかに低下している。一方、「豊かさ」と「便利さ」の正統性認識を補完すべく、現在では、李克強率いる国務院の主導のもと、景気浮揚策が矢継ぎ早に打ち出され、李克強の動静に注目が集まっている 7。こうした状況を踏まえて、中国の国内外の一部では、「李上習下」（習近平が総書記を退任し、代わりに李克強が就任する）との声が、たびたび聞かれるようになった。北京在住のメディア関係者によれば、6月末にも、「同月中旬に開催された党中央の特別会議で、次期党大会での李上習下の実現が正式に決定された」との噂が流れたという。事の真偽は別にして、そうした話題が繰り返し取り沙汰される程度にまで、習近平への政治的風当たりは厳しい。

３．政権続投を可能にする主要な政治アクターの動向

だが、少なくとも公開情報による限り、また、以下に挙げるいくつかの理由から、現時点で、習近平の一強体制に変化はなく、次回党大会後の三期目続投の可能性も依然として相当に高い。こうした判断の根拠として、中国政治における主要な3つのアクターの政治認識と政治行動の特徴が挙げられる。すなわち、①「多数派」（優越的エスニックである大陸本土の非エリート漢族住民）、②「体制エリート」（改革開放期を通じて多くの既得権益を蓄積してきた、党と政府の有力な官僚政治家とその親族、および、彼らと緊密な関係を有する社会経済エリート）、③「最高指導者」（習近平その人）である。

(1)「多数派」の保守的政治心理と不活発な政治行動

総じていえば、現在の中国では、一定の経済的豊かさに基づく保守的心理が、政治社会の主流意識であり、現状変革の志向に乏しい。例えば、2019年に、中国の1人当たり名目GDPは1万ドルの大台を突破し、以後、2021年まで3年連続で1万ドルを上回っている。推計によれば、中国は遅くとも2025年までに、世界銀行の基準でいう「高所得国」となる見込みである 8。1970年代末以来、約30年間続いた高度成長の結果、中国国民はすでに、世界的にみても相対的に豊かな経済生活を享受している。

こうした経済的変化に伴い、中国でも、消費社会の出現とともに、「家族と個人の時代」が到来した。現在では、一定の経済的豊かさに基づく現状肯定と、家族と個人の幸福追求を第一義的関心とする保守的心理が、社会の多くの部分に広がっている。改革開放前の貧しく不便な生活を記憶する中高年層はもとより、若年層の多くも、既存の秩序や制度の動揺とそれによる自己のライフチャンスを含む、将来の予測可能性の低下を希望しないであろう。それゆえ、短期的見通しとして、1989年の天安門事件（当時の1人当たりGDPは約400ドル 9）のような、全国規模での反習近平・反共産党運動が発生する可能性は低い。

(2)「体制エリート」の組織的反対行動抑圧のための実力部隊の掌握

周知のように、2012年の第1期習近平政権の発足時には、薄熙来（党中央政治局委員）や周永康（党中央政治局常務委員、中央政法委員会書記）らによる反習近平の政治運動があったとされる。その際、習近平にとって最大の脅威は、共産党の「政法委員会」と呼ばれる国内治安・司法機関（例：警察、裁判所、検察、司法行政機関、インテリジェンス部門）を統括する部門の総責任者であった、周永康が有する人的ネットワークと影響力であったと思われる。この反省を踏まえて、習近平は、党の内外に遍在する不満分子への監視と摘発の任務を遂行する暴力装置として、過去2～3年来、政法委員会の統制に余念がない。

2019年1月、党内法規の形式で施行された「中国共産党政法工作条例」では、①政法委員会は、「習近平同志を核心とする党中央の強固な指導のもとで業務を行う」（第5条）、②「党中央は政法活動に対する絶対的指導を実行する」（第7条）、③中央政法委員会とその関連機関は、「党中央に責任を負い、党中央の監督を受け、党中央と総書記に対し、業務の指示要請と報告を行う」（第17条）、ことなどが規定された 10。とくに、総書記個人への指示要請と報告が明記されている点は注目されよう。

続いて、2020～2022年にかけて実施された「全国政法隊伍教育整頓」キャンペーンでは、政法部門の複数の有力幹部がパージされ、代わりに、地方指導者時代から習近平に付き従う子飼いの部下がその任に就いた。2020年、党中央紀律検査委員会は、公安部副部長の孫力軍を紀律違反の容疑で調査していることを発表し、孫は2021～22年にかけて逮捕・起訴された。同じく公安部の要職を歴任し、司法部部長（2018～2020年）を務めた傅政華も、汚職などの罪で失脚した。孫力軍の主要な罪状は、自身をリーダーとする派閥の形成であり、傅政華もその一員とされる。本年5月に発表された上記「教育整頓」運動の1つの成果は、「孫力軍の政治グループなどの害毒の影響を徹底的に排除した」ことであった 11。

なお、孫力軍が抜けた公安部は、習近平の福建省時代以来の側近である王小洪が、2021年から党委員会書記を務め、22年6月には、公安部部長にも就任した。傅政華の後任として司法部部長となった唐一軍は、習近平の浙江省時代の部下である。この結果、現在、中央政法委員会の計10名の委員職以上のうち、2名の委員（陳一新、唐一軍）のほか、副書記（王小洪）と秘書長（陳一新）の重要ポストを、習近平の人脈が確保している。彼らはみな60歳代前半で、20回党大会後の留任、さらなる栄達が見込まれる。これに対し、軍と武装警察の2名の制服組の人物（王仁華、王春寧）を除く残り8名のうち、胡錦濤派に属する周強以外に、郭声琨・趙克志・張軍の3名は、年齢を理由として次回党大会前後での引退の可能性が高い。

(3)「最高指導者」の政治的トラウマと代替候補の不在

習近平の政治認識と政治行動については、2012～2013年の第一期政権の発足時に、習本人が経験したであろう脅威と屈辱の大きさを忘れてはならない。既述のとおり、胡錦濤から習近平への政権移行に伴う政治的混乱、具体的には、指導部人事をめぐる権力闘争では、薄煕来や周永康などによる「習近平おろし」の動きがあったとされる。混乱収拾の過程では、薄と周をはじめ、令計画、徐才厚、郭伯雄など、党や軍の要職経験者が多数失脚した。この時の苦い経験と反省が、その後の個人集権と、政敵粛清を兼ねた苛烈な反腐敗キャンペーンの精神的原動力であったとみられる。現状において、最高指導者である自身の更迭などを、習近平が黙って見過ごすとは、端的にいって想像しがたい。

最高指導者に関しては、中央軍事委員会主席の人事にも目配りが必要である。この点に関し、江沢民・胡錦濤の両時期に慣例化していた、次回党大会での総書記選出が見込まれる文民指導者を、当該大会の数年前に軍委副主席に就任させる人事配置を、習近平が停止してしまったことは重要である（例：2002年に総書記に就任した胡錦濤は1999年に、2012年に総書記となった習近平は2010年に、それぞれ軍委副主席に着任）。

この結果、中央軍事委員会の現任メンバーには、軍人である2名の副主席を含め、習近平を除いて文民指導者が1人もいない。すなわち、「党が鉄砲を指揮する」（毛沢東の言葉）という中国的シビリアンコントロールの原則と、軍委主席責任制の制度的配置のもと、習近平に代わって軍の統帥権を単独で掌握する文民の候補者が見当たらない。それゆえ次回党大会で、習近平が軍委主席に留任できない場合、指導部内の混乱は避けられないであろう。

後述のように、習近平は、みずからの生涯を通じて、「中華民族の偉大な復興」の国家目標を本気で追求している。クーデターまがいの政変劇やそれに起因する支配体制の動揺など、目標実現を阻むすべての可能性は、是が非でも排除しなければならない。政治の意志と行動の最終的保証として、力の信奉者である習近平は、そのための実力行使をためらわないであろう。

以上の内容に示されるとおり、習近平の権力と権威について、その「フロー」と「ストック」を総合的に勘案すると、習近平は依然として、短期的な権威の低下を相殺するのに十分な、権力の制度的・実体的基盤を有している。「多数派」や「体制エリート」の間歇的な不満や批判を受けて、人事や政策の一部修正を行うことは、むろんあり得よう。だが、そうした漠然とした政治的雰囲気や個別集団の利害表出は、部分的な政治的譲歩を勝ち取ることはできても、習近平の最高指導者の地位を脅かすには至らないだろう。現時点での評価として、20回党大会以後も、習近平が中国政治の最高指導者――職位の名称が党主席か、党総書記のいずれかは別にして――であり続けると見る方が妥当である。

４．「習近平時代」の政治発展のシナリオ

(1)「狭義の習近平時代」と「広義の習近平時代」

筆者の見るところ、政治史としての「習近平時代」は、①「狭義の習近平時代」（習近平が党主席、党総書記、国家主席、中央軍事委員会主席などの名目上の最高職に留まる時期）、②「広義の習近平時代」（習近平本人とその政治路線を引き継ぐ後継者の任期を含む）の2つが想定される。以下のとおり、いずれのシナリオも2010～2030年代全般の約30年間続く可能性がある 12。

まず、今秋の党大会を経て第3期習近平政権が成立した場合、習の国政担当期間は、第1期政権が始まった2012～2013年から、3期目が終わる2027～2028年までの通算15年となる。次に、上記①の「狭義の習近平時代」の場合、仮に習近平が、2035年（2049年の建国百周年と同等に重視される政治的スケジュール）まで、最高指導者の形式的地位にとどまるとすれば、その時の習の年齢は82～83歳で、党主席のまま82歳で死去した毛沢東の年齢を超える。習近平が2035年までの超長期政権を目指していると噂される所以である。

だが、より実現可能性が高いのは、②の「広義の習近平時代」である。天安門事件後、鄧小平はキングメーカーとして、江沢民と胡錦濤の二代の継承を決定し、鄧・江・胡の3名で1980～2000年代の約30年に及ぶ「広義の鄧小平時代」が形成された。鄧小平と同じく、習近平も二代指名を行えば、後継者の任期も10～15年間続き、前述した2027年を起点とすると、2037～2042年までとなる。これにより「広義の習近平時代」は、2010～30年代全般をカバーする。

(2) 20回党大会における習近平の政治的去就

20回党大会に臨む習近平にとって、指導者ポストをめぐる主要な選択肢を考えれば、次の4つが想定される。順番が下位のシナリオのほど、短期的な政局の不安定性が増す。

第一に、習近平にとって最善シナリオは、既述の「狭義の習近平時代」のうち、1982年の12回党大会で廃止された党主席を復活させ、党・国家・軍の3主席制度を確立し、その全てに、「領袖」である自分が就任することである。

第二に、次善の策として、同じく「狭義の習近平時代」に該当し、「核心」の政治称号をもつ党総書記として3期目を続投する一方、少なくとも中央軍事委員会主席のポストを維持する。ここで乗り越えるべきハードルは、2期10年の総書記の連任制限と68歳定年制である。だが知られる限り、どちらも制度上の慣例にとどまる。

第三に、許容下限の選択として、軍委主席の地位には留まるものの、党総書記と国家主席の職位のいずれか、または両方を、自分の地方指導者時代から付き従ってきた子飼いの部下に譲る。これは、鄧小平や江沢民の前例に倣った「院政」パターンであり、「広義の習近平時代」への移行準備の段階でもある。習近平は、政治的後見人として最高実力者であり続ける。

第四に、習近平にとって最悪のシナリオは、党総書記と国家主席はもちろん、軍委主席にも留任できない状況である。この場合、指導部内の混乱はもちろん、体制レベルでの動揺もあり得よう。その根拠は、前述したポスト習近平の軍委主席の文民候補の不在である。習の望まない辞任の後には、軍委主席のポストをめぐり、熾烈な権力闘争が発生する恐れがある。

５．「中華民族の偉大な復興」をめぐる習近平の認識

(1) 米国に代わる覇権国の地位追求

以上の叙述に示されるとおり、中国政治は、2010～2030年代を通じて、習近平という特定の指導者の理念とリーダーシップに強く拘束された、長期的な政治発展のステージに入った。では、最高指導者として習近平は、中国を一体いかなる方向に導こうとしているのか。

国家統治に関する習近平の具体的な主張のうち、中核に位置する三本の柱は、①国家目標である「中華民族の偉大な復興」の実現、②民主化運動による体制転換の阻止、③領土拡大と海洋進出の積極化である。

①に関して、習近平は、建国百周年の2049年までに、中国が米国に代わって覇権国になるという目標を本気で追求している。例えば2018年1月の演説で、習近平は、毛沢東と鄧小平の言葉を引用しつつ、「中華民族の偉大な復興」の最終目標が、「世界最大の社会主義国家」の中国が、「世界最強の資本主義国家」のアメリカに追い付き追い越すことであり、中国の実践を通じて、資本主義に対する社会主義の優越性を世界に示すことであると強調した 13。

この場で私は、皆に数篇の文章を読み上げたい。……／3番目の言葉は、1956年8月、第8回党大会予備会議の第1回会議における毛沢東同志の発言である。「我々は、党の内外、国の内外の団結可能な全ての力を団結させる。目的は何か？ 偉大な社会主義国家を作り上げるためだ」。このことは、「過去百年余りの落後した状況、ひと様に見下された状況、不運でひどい状況を完全に変えるだろう。のみならず、世界最強の資本主義国家、すなわち、米国に追い付くだろう」。「もしそうでなかったら、我々中華民族は全世界の各民族に申し訳が立たないし、人類への貢献も小さいものになってしまう」。〔ここまで毛沢東の言葉の紹介〕

4番目は、鄧小平同志の言葉である。「我々中国は、今世紀末の20年と次世紀の50年の計70年の時間を用いて、社会主義が資本主義より優れていることを世界に証明すべく努力する。我々は、生産力と科学技術の発展の実践を通じ、精神文明と物質文明の向上の実践を通じ、社会主義の制度が資本主義の制度より優れていることを証明し、そうすることで、資本主義の先進国家の人民をして、社会主義の方が資本主義に比べて確かに良いものだと認識させるのだ」。〔ここまで鄧小平の言葉の紹介〕

わが国は、世界最大の社会主義国家であり、わが国が社会主義現代化強国を作り上げたまさにその時、資本主義の道ではなく社会主義の道を歩み、それに成功して現代化強国を作り上げた初めての国となったまさにその時、わが党が人民を指導して中国で行っている偉大な社会革命は、その歴史的意義をいっそう明確に示すであろう。（2018年1月、新規選出の中央委員と同候補委員、及び閣僚級の幹部が参加した、第19回党大会の成果学習会議での発言）

(2) カラー革命の防止と「海洋レコンキスタ」の推進

また、上記②③については、「中華民族の偉大な復興」を実現するための方法的課題として、内政では、諸外国で発生したカラー革命の再現防止が、外交・安全保障では、台湾併合や東・南シナ海島嶼部での「失地回復」とそれに付随した海洋権益獲得の推進が、それぞれ挙げられる。

前者について、欧米諸国や日本などの「西側諸国」に対し、習近平は、強い不信感を抱いている。習によれば、イデオロギーと政治体制の相違により、中国と「西側」の対立は、一種の宿命的な性格を帯びている。習はいう 14。

社会制度やイデオロギーなどの面で、我々と西側の国家は完全に異なっている。このことは、我々と西側の国との闘争と勝負が調和できないことを決定づけており、したがって、その闘争は必ずや長期的で複雑、時には非常に激しいものになるのだ。……我々が発展し強盛になるほど、彼らはいよいよ焦りを深め、わが国への西洋化・分裂戦略の度合いもますます強まる。彼らの目的は、わが党の指導〔＝共産党の一党支配のこと〕を破壊し、わが国の社会主義制度を転覆することだ。当然にも我々は、西側の国との国家関係を発展させ、経済技術の交流協力を強化し、わが国の発展のため、最良の条件を得るのに益するようにすべきだ。だが同時に、彼らの心の奥底にある政治的陰謀を……決して甘く見てはならず、いかなる幻想も決して抱いてはならない。（2012年12月、中央軍事委員会拡大会議での発言）

後者に関し、その「主戦場」はむろん、東シナ海と南シナ海である。歴史問題と尖閣諸島領有をめぐる日本との対立では、習近平は、東シナ海での防空識別圏の設定（2013年11月）や海・空の監視活動の常態化などを、自らの施政の政治的功績と捉えている。2014年後半期から本格化した、南シナ海での人工島建設も同様である。こうした習近平の見方からすれば、中国の海洋進出の動きは、今後も強まりこそすれ、弱まることはないであろう。

海に向かえば国は興り、海を棄てれば国は衰える。我々は……釣魚島〔＝尖閣諸島のこと〕の権利擁護の闘争を行い、東海〔＝東シナ海〕防空識別区を設定し、常態化された管理統制を実施した。南海〔＝南シナ海〕の島嶼・岩礁の建設を速め、海洋経営とシーパワー擁護の面で歴史的進展を得た。私は以前、次のように述べたことがある。我々が今日為した成果と蓄積が、将来の海洋の態勢を決定し、将来のわが国の主権・安全・発展の利益の擁護における戦略的主導性を決定する。これは、我々の世代の歴史的に重責であり、我々は揺らぐことなくこれを引き受け、後世の人々のため、中華民族のため、南海の権利擁護闘争の勝利を最終的に勝ち取るための堅牢な戦略基地を建造しなければならない、と。この重大な決定と活動の戦略的意義は、時間の推移とともに、引き続き明確に表れてくるだろう。（2016年2月、中央軍事委員会拡大会議での発言） 15

６．おわりに

本文の最後に、中国政治の自由化・民主化の展望に関して、台湾の重要性を指摘しておきたい 16。本文中、第3節(1)「『多数派』の保守的政治心理と不活発な政治行動」の箇所で確認したように、習近平政権下の中国は、少なくとも短期的には、民主的変革に向けた内部的エネルギーが不足している。したがって、中長期的に見た場合、変化のカギは、外部からの持続的な政治刺激である。

この点、中国の内政と外交の狭間に位置する台湾は、中国大陸に住む漢族マジョリティの「中華」ナショナリズムを過度に刺激することなく、彼・彼女らの政治意識を変え得るほぼ唯一の外部勢力である。2019年5月、アジアで初めて同性婚を合法化した人権先進地であり、台湾の自由民主主義が、国際的にも高く評価されている点は銘記されなければならない。もとより日本にとって台湾は、自国の安全保障戦略はもちろん、半導体産業に代表される経済・科学技術協力などの面でも大きな存在感を有する。だが、そうした功利的利益のみならず、中国大陸における民主化促進と政治的価値の面からも、日本と台湾の民主政治は、いっそうの協力深化が求められている。

（2022年8月8日脱稿）

（愛知県立大学准教授）

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