提言・論考
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人口爆発のアフリカ
"最後のフロンティア"は世界をどう変えるか

白戸圭一

はじめに

第2次大戦後の国際秩序形成を主導してきた米国を中心とする西側諸国のパワーが相対的に低下する中、新たな国際秩序の形成に向けた動きが顕在化している。21世紀に入って超大国となった中国、総人口世界一となったインド、ウクライナに軍事侵攻しているロシアなどの大国は、西側主導の国際秩序とは一線を画す姿勢を強めており、多くの新興国から西側主導の国際秩序への不満が噴出している。

そうした中、国連加盟国（193か国）の4分の1強を占めるアフリカ諸国の動向が注目を集めている。とりわけ2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻を巡るアフリカ諸国の外交姿勢は、西側諸国に衝撃を持って受け止められ、西側諸国によるアフリカへの働きかけが従来にも増して活発化することになった。

ウクライナ戦争が始まる少し前から、アフリカで大国間の覇権競争や「新たなアフリカ争奪戦」が起きているとの指摘もあった1。だが、現在のアフリカは、国際秩序における単なる受動的存在ではない。アフリカ諸国は国際関係の「周辺」とも言える環境に置かれてきたが、外部からの関与を巧みに利用し、自らの経済的利益や政治的基盤の強化を模索してきた。アフリカの国々は国際情勢を利用して自らの利益を追求すると同時に、現行の国際秩序を自らに有利な方向に変えようと行動する能動的主体となりつつある。この小論では、ウクライナ侵攻をめぐるアフリカ諸国の対応を検討し、アフリカの状況が国際秩序の変容にどのような影響を与えているのかを考えたい。

１．西側諸国の衝撃

ロシアのウクライナ侵攻を受け、2022年3月2日の国連総会ではウクライナからのロシア軍の即時撤退を求める決議が採択された。193の国連加盟国のうち141か国が賛成票を投じた一方、5か国が反対票を投じ、35か国が棄権、12か国が無投票だった。ロシア批判を回避したこれらの国々を見ると、棄権35カ国のうち17カ国、無投票12か国のうち８カ国、反対5か国のうち1か国がアフリカ諸国であった。反対１、棄権17、無投票８を足すと計26か国になる。つまり、アフリカ54か国の半分弱がロシア非難に同調しなかった。その約3週間後の2022年3月24日の総会で、今度は民間人に対する攻撃停止や人道支援強化を訴える決議案が採択された。賛成140か国、反対5カ国、棄権38か国、無投票10か国であったが、アフリカ諸国に注目すると、賛成27、反対1、棄権20カ国、無投票6だった。つまりアフリカ54か国のちょうど半分がロシア非難に同調しなかった。

ウクライナ侵攻から1年後の2023年2月23日の国連総会決議で採択されたロシア非難決議におけるアフリカ諸国の投票結果は、賛成30か国、反対2か国、棄権15か国、無投票7か国であった2。賛成票を投じてロシアを非難する国が若干増えたものの、世界全体を見た場合、アフリカにおける棄権と無投票の多さは引き続き際立っている。

ウクライナにおける戦争には、ウクライナを支援する西側とロシアの代理戦争という性格があるため、この戦争に対する各国の外交スタンスは、西側主導の現行の国際秩序に対する評価を含むことになる。したがって、ロシア非難に同調しない国がアフリカに多いという事実は、西側諸国が思っていたほど現行の国際秩序がアフリカ諸国から支持されているわけではないことを意味した。

アフリカの国の中には、ケニア、ガーナ、ナイジェリアのように、侵攻直後の2022年3月の国連総会決議の採択でロシア非難に賛成票を投じた国もあり、その数はアフリカ54か国の半分強に当たる28か国に上る。アフリカは決して一枚岩ではなく、ロシアや中国との付き合い方も国によって多様であることは言うまでもない。

だが、国連人権理事会におけるロシアの理事資格停止を求めた2022年4月7日の国連総会決議採決は、アフリカの9か国が反対、24か国が棄権、11か国が無投票という結果となり、侵攻直後の決議には賛成票を投じていたケニア、ナイジェリア、ガーナといった地域の有力国でさえ、棄権や無投票に方針転換した。西側諸国が期待していた態度を取らない流れがアフリカ全体に広がっていることは明らかであった。

多くのアフリカ諸国の経済規模と軍事力は小さく、各国が国際社会に向けて単独で何らかの要求を突き付けても、その影響力は極めて小さい。そこでアフリカ諸国はしばしば、地域機関のアフリカ連合（AU）を通じて共同でメッセージを発信したり、方針の擦り合わせを行う。このため西側諸国であれ中露であれ、国際社会における自身の行動の正当性を確保しようと思えば、国連加盟国193か国の4分の1以上を占めるアフリカ諸国から可能な限り多くの支持を得ることは、重要な外交課題である。

国際秩序を主導してきた西側諸国は、ロシア非難に同調しないアフリカ諸国の投票行動に衝撃を受け、アフリカ諸国に対する働きかけを活発化させた。米国のバイデン政権は2022年8月に南アフリカ、コンゴ民主共和国、ルワンダの3か国を訪問したうえで、12月にワシントンで米国・アフリカ首脳会議を開催し、アフリカから49カ国とAUの代表を前に3年間で少なくとも550億ドルをアフリカに投資する計画を発表した3。ブリンケン国務長官は23年3月にエチオピアとニジェールを訪問した。

ウクライナのゼレンスキー大統領が出席した2023年5月のG7（先進7か国）広島サミットには、アフリカ連合（AU）議長国のコモロのアザリ大統領が招かれ、岸田文雄首相との個別会談が行われた4。岸田首相はサミットに先立ってケニア、ガーナ、モザンビーク、エジプトの4か国を訪問し、対アフリカ支援と連携強化を表明している。

２．国際秩序への不満

なぜアフリカには、ロシアの軍事侵攻を明確に非難せず、「棄権」や「無投票」といった意思表明をする国が多いのか。これまでの国連総会における一連のロシア非難決議の採決で、反対票を投じたアフリカの国はエリトリアとマリの2か国に過ぎない。エリトリアは極端な反米政権の統治下にあり、マリの現政権はロシアの民間軍事企業ワグネルに依存している。両国の投票行動はアフリカを代表するものではない。

アフリカは19世紀以降に植民地として支配され、大半の国は1950年代後半以降に独立を果たした。南アフリカは20世紀初頭に独立したものの、欧州移民の子孫によるアパルトヘイト政策が放棄されたのは1991年であり、アフリカ系住民の国政参加の実現は1994年である。異民族支配の歴史を経験してきたアフリカ諸国にとって、「民族自決」は自国の存立基盤にかかわる譲れない原則である。さらに言えば、経済的・軍事的な弱者であるアフリカの国々にとって、武力による現状変更の是認は自殺行為に等しい。自国が侵略の標的にならないとは言い切れず、国内の反政府勢力が武力による分離独立の動きを強める可能性も排除できない。このためアフリカ諸国は、明らかな国際法違反であるロシアの武力による現状変更を前例として認めるわけにはいかない。エリトリアとマリという特殊な例を別にすれば、国連総会におけるロシア非難決議に正面から反対する選択肢はないのである。

一方、アフリカ側には、西側主導の国際秩序を無条件で認めるわけにはいかない、または認めたくない事情がある。

第1に、ロシアのウクライナ侵攻と西側による対露制裁がアフリカ諸国に深刻な経済的打撃を与えているという、現実的な問題がある。アフリカ諸国は小麦や肥料をロシア、ウクライナから輸入しており、ロシアの侵攻と西側の対露制裁によって食糧不足が深刻化した。ロシアによる侵攻時にAU議長だったセネガルのマッキー・サル（Macky Sall）大統領は2022年6月にロシアを訪れ、プーチン大統領に穀物の輸出再開を要請した。訪問に合わせて6月10日に仏紙ルモンドに掲載されたインタビューで、サル大統領は「AUは紛争当事者ではなく、戦争を止めてくれと言っている。まず戦争を止めて、話し合ってくれということだ。我々は誰が間違っているとか、誰が正しいとかいう議論をしていない。穀物と肥料へのアクセスがほしいだけだ。我々は戦争と制裁の間に挟まれている」と述べている5。

第2に、アフリカにおける「自分たちは既存の国際秩序から正当な利益を得ていないと考えている」という認識の広まりである。例えば、アフリカでは近年、各地で干ばつや洪水が相次ぎ、気候変動との関連が指摘されているが、アフリカ諸国が排出した温室効果ガスはわずかである。温室効果ガスの大半は西側諸国から長年にわたって排出され続けたものであり、近年になって中国、インドなどがこれに加わった。アフリカからみれば「大国が作り出した問題によって、自分たちが最も深刻な被害を受けている」という構図だ。

「アラブの春」の際のリビアに対する欧米諸国の行動についても、アフリカ諸国は今なお憤りを抱いている。2011年3月、米英仏を中心とするNATO（北大西洋条約機構）軍はリビアに大規模な空爆を行い、カダフィ政権を短期間で崩壊させたが、少なからぬアフリカの国が空爆に反対した。カダフィ政権はアフリカ各国から多数の傭兵を雇用しており、政権が崩壊すれば、傭兵たちが武器と共に祖国へ帰還し、反政府武装闘争を劇化させる事態が予想されたからである。だが、アフリカ諸国の懸念は一切顧みられず、空爆は実行され、カダフィ政権は瞬く間に崩壊した6。アフリカ諸国が抱いた懸念は的中し、マリでは2012年、リビアから戻ったトゥアレグ人傭兵らがイスラーム武装組織と結びついて分離独立を宣言した。10年以上経った現在も、マリは内戦の泥沼から抜け出すことができずにいる。

こうしてアフリカの少なからぬ国々が、国際法尊重の観点からロシア非難決議に反対こそしないものの、西側中心の国際秩序の承認を含意する決議に賛成はしない、という結論に到達する。賛成でも反対でもない「棄権」「無投票」という投票行動は、こうした比較考量の末に選択されていると考えられる。

３．「非同盟」の追求

ウクライナ戦争は西側主導の国際秩序に対するアフリカの不満を顕在化させたが、アフリカでは戦争が始まる前から、中国、インド、ロシア、トルコなど新興国の存在感が高まっていた。とりわけ中国が近年、アフリカ開発の主要プレイヤーになったことは広く知られている。中国は2007年以降、アフリカにとって最大の輸入元であり、2021年のアフリカ側の中国からの輸入は1484億ドルと、2位のインドの379億ドルの約4倍に達する。中国はアフリカにとっての最大の輸出先でもあり、2021年のアフリカから中国への輸出は1059億ドルと、2位のインドの446億ドルの約2.4倍に達する。中国とアフリカの間の貿易総額（輸出＋輸入）は、2021年に過去最高の2543億ドルに達した7。2000年の中国・アフリカ間の貿易総額は100億ドル程度であったから、20年間でおよそ25倍に増えたことになる。国連貿易開発計画（UNCTAD）の世界投資報告書2022年版 によると、2020年時点で対アフリカ投資残高が最も多いのは英国の約650億ドルであり、中国は第5位の約430億ドルである8。

2023年に南アフリカで開かれたBRICS首脳会議では、新たに6か国が2024年1月からBRICSに加盟することが決まり、アフリカからはエジプトとエチオピアの2か国が新規加盟することになった。これ以外にもナイジェリア、モロッコ、セネガルなどアフリカの域内経済大国が加盟に関心を示しているとの報道もある。

こうした状況から、アフリカの国々が英仏に代表される旧宗主国や米国といった西側諸国から離れ、中国とロシアに取り込まれつつある、といった見方がある。だが、多くのアフリカ諸国は、自国の安定と発展に有益であると判断した範囲内で中露の資金や軍事支援を利用しているに過ぎず、西側諸国を離れて中露に取り込まれてしまったのではない。

AUの執行機関であるアフリカ連合委員会（AUC）のムサ・ファキ・マハマト委員長が2023年5月25日のアフリカ統一機構（AUの前身）創設60周年の記念式典で行った演説は、アフリカ諸国の基本的な外交スタンスを示すものとして注目できる。同委員長は、ロシアのウクライナ侵攻を巡って西側諸国と中露の対立が深まっている状況を踏まえ、「アフリカが地政学上の戦場に変容する恐れがある。（中略）個別的にも集団的にも、AU加盟国に対するあらゆる形態の道具化に抵抗しなければならない」と述べ、アフリカが西側と中露のどちらにも与さない方針を強調した9。演説からは、アフリカが西側と中露、さらにはインドといった大国の草刈り場とされることへの強い警戒感がうかがえる。

西側とも中露とも一定の距離を置く外交方針を掲げている国の典型は、アフリカの地域大国としてBRICSの一角を占める南アフリカである。南アフリカはウクライナ戦争を巡る全ての国連決議の採決を一貫して「棄権」し続けており、2022年5月16日付の南ア紙デイリー・マーベリックに掲載された同国のアルヴィン・ブテス（Alvin Botes）国際関係・協力副大臣の寄稿は、南ア政府の行動指針を明確に説明している。ブテス氏は「南アフリカは、ウクライナ戦争について中立的な立場をとっているのではなく、むしろ非同盟的な立場をとっている」と明言したうえで、「ウクライナ戦争とイラク戦争、アフガニスタン戦争は、大国が平然と侵略を行ったという点でよく似ている」と米国によるイラク攻撃（2003年）とアフガニスタン攻撃（2001年）をロシアのウクライナ侵攻と同列のものと見做した10。

南アはこうした「非同盟」方針を外交において実践しており、2023年6月にはシリル・ラマポーザ（Cyril Ramaphosa）大統領がセネガル、ザンビア、コモロの大統領らとともにウクライナとロシアを訪問し、ウクライナ・ロシア間の交渉による紛争終結などを柱とする10項目の和平提案を行った。現状において、ロシアによるウクライナ領土の占領を前提とした提案がウクライナ側に受け入れられるはずもないが、南アに代表される少なからぬアフリカの国々は、西側と中露の対立に巻き込まれることを強く警戒し、真剣に「非同盟」を追求している。

４．人口爆発

西側諸国と中露が対立を深めれば深めるほど、アフリカを含むグローバル・サウスの国々を取り込むことの重要性は増す。その支持があれば、どちらの陣営にとっても自らの行動の正統性が国際社会で高まるからである。アフリカ諸国の側も、そうした国際社会における自分たちの存在価値に自覚的であるからこそ、大国のパワーポリティックスに翻弄されることを強く警戒しながら、国連総会での投票行動などを通じて、国際秩序の再構築の必要性を訴えるメッセージを発している。

こうしたアフリカの動きに対し、米国、欧州連合、中国、インド、日本、ロシアなどの主要国・地域は、ウクライナ戦争の前からアフリカへの関与強化を打ち出していたが、戦争が始まって以降、その傾向はますます強まっている。

その最大の理由は、国連加盟国全体に占めるアフリカの国の数の多さという事実のみならず、アフリカが「最後のフロンティア」とも形容される将来性ある地域だからである。いま、サブサハラ・アフリカでは、人類が経験したことのないペースで人口が増えている。世界人口白書2023年版によると、世界人口は2022年11月に80億人を超えたとみられ、このうちサブサハラ・アフリカは11億7400万人である11。注目すべきは人口増加率の高さだ。国連が2022年に公表した世界人口予測によると、2021年の世界の人口増加率が年平均0.82％なのに対し、サブサハラ・アフリカは2.51％と地域別で世界最高だ。国連の予測（中位推計）では、2050年1月1日時点の世界人口は96億8700万人で、このうちサブサハラ・アフリカの人口は20億9400万人と、世界人口のおよそ5人に1人を占める。さらに2100年には、世界人口103億5500万人のうち、サブサハラ・アフリカの人口は34億3533万人と予想されている。世界人口の実に3人に1人であり、まさに「人口爆発」と形容するほかない。さらに言えば、サブサハラ・アフリカの人口のおよそ6割は25歳未満の若年層であり、65歳以上は総人口の3％を占めるのみである12。

サブサハラ・アフリカの人口動態は、グローバル企業にとって商品やサービスを長期にわたって提供し続けることができる極めて魅力的な環境であり、アフリカ各国の政府にとっては、経済発展に向けた絶好の機会でもある。

生産年齢人口（15~64歳）の増加スピードが従属年齢人口（0~14歳と65歳以上）の増加スピードを上回り、経済成長が促進される状態のことを「人口ボーナス」と言うが、サブサハラ・アフリカは2080年ごろまで人口ボーナス期が続くとの予想もある。人口ボーナスの渦中にある社会は、若者が次々と労働市場に参入し、高齢者が少ないので社会保障費の負担が少ない状態といえる。そのため、政府は国家予算を産業政策に振り向けやすく、国内消費も活発化するので他国からの投資も呼び込みやすく、経済成長を実現しやすいという考え方がある。世界各国からのアフリカに対する投資の急増は、これから人口ボーナスが続く見通しのアフリカに対する期待の高さの表れともいえるだろう。

一方、人口ボーナスの期間中に続々と労働市場に参入してくる若者に対し、十分な就業機会が提供されなければ、人口ボーナス状態が自動的に経済成長と社会の安定をもたらす訳ではない。若者に雇用機会を提供し、食糧を安定的に供給することができて、初めて人口ボーナスを活かした経済成長が達成される。その反対に、十分な食糧も雇用も供給できないまま若年層が増え続ければ、食糧危機と大量失業が深刻化する可能性が否定できない。学業を終えても就業機会に恵まれない若者の不満は、しばしば過激主義などと結びつき、テロや武力紛争の発生へとつながる。それはやがて、アフリカ諸国自身を苦しめるのみならず、難民の域外への流出やテロ組織の台頭といった形で世界全体を不安定化させるだろう。アフリカ諸国が開発資金としての投資を各国企業に必死になって呼びかける背景には、こうした将来を何としても回避したいという切羽詰まった事情がある。

開発資金としての投資を持続的に確保しながら人口爆発を背景とした経済発展を謳歌できるのか。その反対に、増大する若年層の雇用創出がままならず、社会が不安定化し、アフリカ発のさまざまな脅威が世界を脅かすことになるのか。アフリカは岐路に立たされており、国際社会もまた、アフリカとどう向き合うかを問われている。

（立命館大学教授）

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