提言・論考
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中国の宇宙およびサイバー空間における活動

小原凡司
笹川平和財団上席研究員

序論

2019年、世界では合計102基のロケットが発射され、中国はその3分の1にあたる34基を打ち上げている。2019年の中国のロケット打上げ数は世界一である。さらに中国は、2020年に40基以上の衛星を打上げるとしており、中国が宇宙開発を重要視している様子が窺える。中国の宇宙発展戦略は、2016年から2020年の「中国共産党中央委員会の国民経済と社会発展・第13次5カ年計画」（十三五）に則って展開されている。宇宙開発は中国の国家戦略であり、軍民両方の意義を持つ。2016年4月、有人宇宙開発プロジェクトの副総指揮官に、中央軍事委員会装備開発部副部長が指名されたことからも、中国の宇宙開発が軍事目的を有していることが理解できる。

一方、中国のサイバー空間における活動は、一部のサイバーセキュリティに関する議論を除き、公にされていない。中でも、軍事目的のサイバー・オペレーションについては、秘匿の度合いが高い。それでも、中国が、宇宙およびサイバー空間における活動を一体のものとして捉えていることは間違いないようだ。中国は、ネットワークを中心とした戦闘（Network Centric Warfare）を実施する能力の獲得を目指しており、そのネットワークを構築するインフラが衛星等であり、そのインフラによって提供されるのがサイバー空間であることを理解している。2015年11月に始まった人民解放軍の改革の中で、2015年12月31日に新たに組織された戦略支援部隊の存在が、象徴的にその意識を示している。本稿では、宇宙およびサイバー空間における中国の活動を分析し、人民解放軍の戦闘における宇宙およびサイバー空間における活動の意義を考察する。

１ 中国の宇宙白書

2016年12月27日、国務院新聞弁公室が≪2016中国的航天（中国の宇宙）≫白書を発表したi。中国の宇宙白書は、2000年、2006年、2011年および2016年に発表されているii。2016年の白書は、その前文において「中国の宇宙事業は1956年に創建されて以来、すでに60年の輝かしい道程をたどり、「両弾一星」、有人宇宙開発、月探査に代表される輝かしい成果を上げ、自力更生・自主創造の発展の道を行き、厚く広大な宇宙精神を蓄積してきた」と述べる。白書が中国宇宙事業の第一に挙げる「両弾一星」の「両弾」とは原子力爆弾・水素爆弾およびその運搬手段であるロケット、「一星」とは衛星を指している。中国の宇宙開発は、戦略核兵器を開発するために始められ、後に衛星の打ち上げが加わって発展してきたのであり、現在でも最重要とされているのだ。

中国の宇宙開発発展のビジョンでは、「全面的に宇宙強国を建設する」ことが最初に掲げられ、「自主的で制御可能なイノベーション発展能力、先端科学に焦点を当てた探求研究能力、強大で持続可能な経済社会発展サービス能力」に続いて、「有効で信頼できる国家安全保障能力、科学的で効率の高い近代的な統治能力」が挙げられている。

2011年以来の5年間の実績は以下のとおりである。まず、宇宙への輸送システムとして、長征シリーズ・ロケットを86回発射し、100以上の衛星等を予定された軌道に輸送した。その発射成功率は97.67%に上る。また、中国最大の運搬能力を持つ新世代運搬ロケット「長征5号」の初飛行に成功した。「長征5号」は、低軌道への運搬であれば25トン、静止軌道への運搬であれば14トンの積載能力を有する。

次に、「風雲（気象衛星）」、「海洋（海象観測衛星）」、「資源（資源探査用衛星）」、「高分（高分解能対地観測衛星）」を開発している。合成開口レーダーを搭載した「高分3号」は分解能1メートル未満を達成している。「遥感」はリモート・センシング衛星であり、「天絵」は測量衛星シリーズである。通信衛星では、固定通信、移動通信およびデータ中継のための衛星網建設が進んでいる。「亜太」、「中星」シリーズの通信衛星を打ち上げ、世界の主要地点をカバーする固定通信保障システムを完成させた。また、初の移動通信衛星「天通1号」の発射に成功し、3基の「天鏈1号」衛星を以て第一世代のデータ中継衛星システムを構築した。レーザーを用いた地上と衛星間の高速通信試験にも成功している。

２ 中国の宇宙開発プロジェクト

(1) 「北斗」衛星測位システム

中国は、「北斗」衛星測位システムを「三歩走」という三段階で発展させてきた。「北斗1号」システムは、2000年末までに完成され中国本土に対してサービスを開始し、「北斗2号」システムは、2012年末までにアジア太平洋地域に対して正式にサービスを開始した。「北斗3号」システムは、2020年前後に全地球規模で測位航法援助サービスを提供する。さらに、2035年までに、ユビキタス、融合、AIを強化した総合システムとするとしているiii。

2012年末に完成した「北斗2号」システムは、中国周辺で測位誤差10メートル未満を達成している。「北斗3号」システムは、2018年に19基の衛星を以て基本的なネットワークを完成しており、2020年に30基の衛星を以て完成されるiv。

(2) 海洋偵察監視センサー・ネットワーク構築

中国は、2006年、初のリモート・センシング衛星「遥感1号」の打ち上げに成功して以来、同シリーズの衛星を継続して打上げ、2016年5月から2018年1月にかけて、「遥感30号」システムのリモート・センシング衛星ネットワークを形成した。2018年1月に「遥感30号」第4組を打上げ、第1組から第3組の合計9基の衛星と併せて、世界中の米海軍及び他国海軍の艦艇を追尾する能力を得たというv。中国は、さらに2019年7月26日、「遥感30号」システム第5組を発射した。中国政府は「遥感30号」システムを宇宙電磁波環境探査および関連技術試験に用いるとしているが、同システムは軍事目的に用いられると分析されているvi。また、中国には、公開されていない軍用衛星が存在するという。

(3) 通信衛星

中国は、高速ブロードバンド通信衛星の開発も加速しており、その投資額は、約100億元（約1,700億円）に上るとされる。中国は、高速ブロードバンド通信が「一帯一路」戦略及び海外発展戦略に貢献するとしている。中国航天科技集団有限公司は、通信衛星用および高軌道リモート・センシング用プラットフォームで、宇宙探査にも応用可能な「東方紅5号」超大型プラットフォーム衛星（ペイロード：1.5トン）を、2019年12月27日に打ち上げ、運用を開始している。

(4) 衛星破壊兵器

中国は、米国の偵察・通信・情報ネットワークを破壊することが、米国に対する劣勢を挽回するものだと考えている。そのため、中国は衛星破壊兵器（ASAT）の開発も進めてきた。中国は、2007年に初の衛星破壊実験を実施して自国の気象衛星を破壊し、2014年には共通軌道式ASATの実験権を実施して、キネティックな衛星破壊能力を向上させているvii。しかし、すでに中国は衛星を利用した通信情報ネットワークを構築しており、自らがネットワークの脆弱性に怯える側にもいる。

また中国は、レーザーやハイパー・マイクロウェーブ等のDEW（Directed Energy Weapon）を用いた衛星破壊能力を開発している。しかし、キネティックにしろDEWにしろ、衛星を破壊する手段は不可逆的である。ひとたび不可逆的な手段を用いれば軍事衝突は免れない。そのため中国は、可逆的手段による衛星ネットワーク無効化能力の向上を図っている。可逆的手段には、アップリンクおよびダウンリンクのジャミング、レーザーやハイパー・マイクロウェーブ等を用いたダズリングまたはブラインディング、サイバー攻撃によるデータのインターセプト・監視、データ汚染等が含まれる。中国は、直接衛星に働きかけるより容易な、地上基地局に対するサイバー攻撃等の能力も向上させている。

(5) 有人宇宙開発

中国の有人宇宙開発は、1992年9月21日に決定された「921工程」という三段階の発展戦略に基づいて行われている。その基礎は、1986年に鄧小平氏が指示した「863計画」である。中国の宇宙開発も、人民解放軍の発展と同様、1980年代半ばの鄧小平氏の指示に基づいて実行されていることを示している。

第一段階は、有人宇宙船による宇宙往復の初歩的・実験的段階であり、第二段階は、宇宙船と宇宙ステーションのドッキングおよび宇宙実験室での短期滞在である。第三段階は、長期滞在型「天宮」宇宙ステーションの建設であり、2022年までに完成させるとしている。2024年に運用を終えるISS（国際宇宙ステーション）に代わって、中国単独の宇宙ステーションが宇宙に浮かぶことになる。中国は、宇宙ステーションの巨大なペイロードを、深宇宙開発および軍事目的のために利用しようとしている。

(6) 月探査

中国の月探査は「嫦娥」というプロジェクト名で、2004年から開始され、「無人月探査」「有人月面着陸」「月面基地建設」の三段階の発展計画を有している。中国の「無人月探査」プロジェクトも三期に分けて実施されている。「無人月探査」プロジェクトの三段階は、「繞（周回）」「落（着陸）」「回（帰還）」である。

第一期は、2007年に「嫦娥１号」が月を周回し、月面地形、地質、環境の探査を行なった。第二期は2007～2016年の期間、「嫦娥2号」および「嫦娥3号」が月面に無人着陸を果たし、2013年12月～2016年8月までの期間、月面車「玉兎」が月面調査を実施した。第三期は2016～2020年の期間とされている。2018年12月8日に「嫦娥4号」が打ち上げられ、2019年1月3日に月の裏側に着陸して月面探査車による調査を開始したviii。月にあるとされる水や氷のほか、核融合発電に使われる「ヘリウム３」など、資源の分布状況も調べているとされる。中国は、2019年中に「嫦娥5号」を打ち上げ、月面の岩石等を採取して、これを回収し地球に帰還させる予定であったが、2020年1月15日現在、「嫦娥5号」打上げの情報は得られていない。

３ 中国の宇宙における活動の主体

(1) 中国航天科技集団有限公司

中国の宇宙開発の主体の一つが、国営企業の中国航天科技集団有限公司である。同社は、1956年10月8日、中国初のミサイル研究機関として、国防部第五研究院という名称で正式に成立し、中国の宇宙事業が開始された。1997年7月1日、国務院は中国航天科技集団公司を設立して社長を任命した。2013年4月、中国共産党中央および国務院は、同社に理事会を設置して理事長を任命し、同社が中国共産党の管理を受けていることを示した。党中央が管理するということは、宇宙開発における軍民の分離が形式的なものであることを示唆している。同社は2017年12月8日に中国航天科技集団有限公司とされ、資本金は200億人民元（約3150億円）で、その後も党中央が理事長および社長を指名しているix。

同社は、「長征」シリーズの運搬ロケット、有人宇宙船、月面探査機、「北斗」測位航法援助衛星、科学探査・技術試験衛星、気象衛星、対地観測衛星、通信衛星といった商用製品の他、DF-41大陸間弾道ミサイル（ICBM）等の戦略核兵器、通常弾頭地対地ミサイル、ミサイル防空システム、無人機等の兵器を製造している。同社は、中国で唯一の大陸間弾道ミサイルの研究開発製造組織であり、多種のミサイルを製造している。

同社は、2020年1月15日現在、「長征」シリーズのロケットを326回発射しており、2019年には、同ロケットを27回発射し、43基の衛星を打ち上げている。同社は、中国版GPSである「北斗」システムの構築についても、運搬ロケットおよびほぼ全ての衛星を製造している。さらに同社は、有人宇宙船、貨物運搬宇宙船、運搬ロケット、宇宙実験室および宇宙ステーション等の研究開発任務を担っており、すでに11基の「神舟」宇宙船、1基の「天舟」貨物運搬宇宙船、1基の宇宙実験室の打上げに成功している。同社は、中国の月探査衛星「嫦娥」およびその運搬ロケットの研究開発および発射もおこなっているx。

(2) 戦略支援部隊

戦略支援部隊は、2015年12月31日に設立され、その人員は175,000名と推定される。戦略支援部隊は、旧総参謀部第2部（情報、HUMINTを含む）第3部（技術偵察、SIGINT）第4部（RADAR／ECM）と旧総装備部の一部の任務を継承しており、軍の宇宙およびサイバー空間における能力について、中央軍事委員会に報告する義務を負っているとされる。

戦略支援部隊の主要任務は、宇宙、深宇宙、ネットワーク、サイバー空間における優勢を確保し、人民解放軍の作戦を有利に進めることである。その具体的任務は、情報、技術偵察、電子戦、サイバー戦、心理戦における特殊作戦、整備補給、目標の捜索探知追尾、目標情報の伝達、航法援助活動、「北斗」及び宇宙情報収集手段の管理業務、サイバー攻撃／防御、ネットワーク防御とされるxi。

４ サイバー空間における活動

(1) 全般

宇宙における活動とは異なり、多くの場合、中国のサイバー空間における活動は明らかにされないが、情報戦は、現在、すべての主要な人民解放軍の軍事演習に組み込まれている。しかし、他国の軍隊と同様、全体的な戦略枠組みの中でサイバー・オペレーションの役割を位置づけるのに苦労しているため、人民解放軍は多くの機能を欠いたままでおり、米国に対する脆弱性を克服できていないと見られている。中国がサイバー・オペレーションの具体的な目的を有しているかどうかも、現段階では明らかではない。

しかし中国は、増強されたサイバー・オペレーション能力を使用して、より弱い相手を威圧し、強要しようとする一方で、中国の活動は正当であると主張するだろうことは推測できる。また、米国等との軍事的緊張が高まった場合、中国のサイバー・オペレーション能力の使用は戦場における戦術的効果の追求に限定されず、敵の攻撃を無効化するために平時から展開される。軍事的な緊張が高まるまでの中国の重要な目的は、米国およびその同盟国の戦略的優位性を損なう国際環境を形成することである。中国政府は、サイバーガバナンスとサイバーセキュリティに関する国際的な交渉が、人民解放軍が活動するサイバー空間を自らにとって有利な戦闘空間とするために、重要な役割を果たすと考えているxii。

(2) 中国のサイバー・オペレーション能力

2015年に習近平主席肝いりで発表された「中国製造2025」プログラムは、技術競争をめぐる米国との貿易紛争の下でも、高度な集積回路チップを開発し、サイバーセキュリティを確固たるものとするために、中国国内の高度なハイテク製造能力を完全に支援するとしている。また、国家国防科技工業局（SASTIND）は、イノベーション主導の技術開発戦略を実施するために設立され、国防技術革新センターを運営しているxiii。

開発された商用技術は軍事にも応用される。中国の軍事的サイバー機能の重要な焦点は、民間部門の活用である。2006年から2020年にかけて実施された国務院の科学技術開発のための中長期プログラムは、軍民科学技術の統合の重要性を強調している。

2006年3月、第10期全国人民代表大会第4回会議において採択された「中国共産党中央委員会の国民経済と社会発展・第11次5カ年計画（第11期五カ年計画：通称十一五）」は、初めて国防および軍隊建設計画を国家経済社会発展の全体計画に盛り込んだxiv。そして、2011年3月、第11期全国人民代表大会第4回会議において発表された第12次五カ年計画（十二五）の中に、「第十五篇 軍民融合 加強国防和軍隊現代化建設」という項目が立てられ、初めて「軍民融合」が明記されたxv。人民解放軍は、軍民融合の方針の下、サイバー領域においても、大学や民間の電気通信部門との連携を図っている。人民解放軍は、ZTEやHuaweiなどの企業と重要な関係を持っている。また人民解放軍は、約46の大学との共同研究関係を有している

５ 中国のサイバー・オペレーションの主体

(1) 61398部隊

中国のサイバー・オペレーションの主体やその活動は国家機密として秘匿されているが、その一部は暴露されている。2013年に米国のセキュリティ会社であるMandient社（現在のFireEye社）が発表した報告書‟APT1 Exposing One of China's Cyber Espionage Units"によれば、人民解放軍の61398部隊という部隊番号を持つ組織がサイバー・エスピオネージに従事している。61398部隊は、総参謀部（現在の中央軍事委員会聯合参謀部）第3部第2局に所属する組織であり、上海に所在するとされる。61398部隊には、数百名が所属しており、数千名の協力者がいると考えられているxvi。

総参謀部第3部は、SIGINTを担当する部署であるが、サイバー・オペレーションも行っていたとされる。同部は技術偵察部という名称であり、本来、外国の技術動向に関する情報を収集する任務を負っていた。同部も61398部隊も、その任務を考慮すれば、サイバー・エスピオネージによって海外の先端技術を窃取していたと考えるのは妥当である。また第3部には、サイバーセキュリティの任務も与えられていると考えられている。これに対して、第4部にはサイバー攻撃の任務があると言われる。

APTとは、国家組織からの指示と支援を受けてAPT攻撃（Advanced Persistent Threat：高度で持続的な脅威）を実行するグループを指す。FireEye社によれば、APT1である61398部隊が標的にする業種は、英語圏の、情報技術、航空宇宙、行政、衛星/通信、科学研究/科学顧問、エネルギー、運輸、建設/製造、エンジニアリング関連サービス、ハイテク/エレクトロニクス、国際組織、法務、メディア、広告/エンターテインメント、航海、化学、金融、食品/農業、医療、金属/鉱業、教育業界の組織、と多岐にわたる。

61398部隊が使用する設備は、中国電信股份有限公司（略称：中国電信、China Telecom）が提供しているとされ、ここにも軍民融合の一端を垣間見ることができる。ただし、61398部隊は担当組織の一つに過ぎず、人民解放軍のサイバー・オペレーションの全容が明らかにされている訳ではない。

(2) 戦略支援部隊

先述の戦略支援部隊は、サイバー・オペレーションの担当部隊でもある。旧総参謀部第3部の任務も継承していると考えられることから、61398部隊も戦略支援部隊隷下に編成されたとする分析もある。しかし、175,000名の人員のうち、何名がサイバー・オペレーションに携わっているのかは不明である。

戦略支援部隊は、戦闘が生起した際の、あるいは生起する以前の段階での、宇宙およびサイバー空間における優勢を獲得、維持することを目的としており、サイバー・エスピオネージ以外の防御的／攻撃的サイバー・オペレーションに関する能力も有すると考えられる。

(3) サイバー民兵

人民解放軍のサイバー・オペレーション能力の向上は、その多くをサイバー民兵（Cyber Militia）の増強に依っていると言われる。召集されるサイバー民兵の数は1,000万を超えるとも言われ、総参謀部第3部の重要な兵力であったとされるxvii。中国のサイバー民兵の使用は、人民戦争の伝統を引き継ぐものであり、軍民融合の形態の一つでもある。

終章－人民解放軍の戦闘における宇宙およびサイバー空間

1993年以来、人民解放軍は積極防御を掲げ、ハイテク条件下での局地戦および情報化条件下での局地戦に勝利することを目標としている。人民解放軍は、米国のRMA（Revolution in Military Affairs：軍事における改革）に触発され、米軍と同様のネットワーク・セントリック・オペレーション能力の構築にまい進してきた。しかし、人民解放軍がネットワークに依存した戦闘を展開することは、それまでの人民解放軍の強点であった「数」の優位を放棄することでもある。

人民解放軍は、制海権および制空権と同様に、制情報権という概念を用い、情報戦を戦うとしている。人民解放軍には、少なくとも12の情報化された訓練施設があり、作戦部隊は妨害や干渉を受けて通信が制限された状況下で、複合的な軍事訓練を実施しているとされる。2008年7月に総参謀部が批准し発布した「新軍事訓練与考核大綱」は、情報化条件下における軍事訓練の実施を指示したxviii。それ以降に実施された「跨越2009」や「使命行動2010」、「聯合2011」などの演習では、防衛的／攻撃的なサイバー・オペレーションおよび情報操作の要素が組み込まれているxix。

中国人民解放軍のサイバー・オペレーション能力向上の努力は、米国の政策や米軍の作戦に対応したものだと言える。例えば、2018年5月4日に、米国のサイバーコマンドがそれまで隷属していた戦略軍から10番目の統合軍に昇格したこと等である。その意味では、中国の軍事的サイバー・オペレーションは防御の必要性に基づいて発展してきたと言えるが、先制攻撃を重要な要素ともしており、そのオペレーション自体が防御的という訳ではない。中国がサイバー攻撃に対する抑止をどのように考えているかは不明である。

また、人民解放軍は、陸海軍の統合作戦のみならず、各領域をも統合しようとしている。中国の軍事戦略は、情報戦と電子戦を単一の概念である「網電一体戦」に集約する。情報戦の非電子的要素には、心理的操作と欺瞞が含まれる。さらに中国は、宇宙とサイバー空間における活動の統合も進めている。

中国は、宇宙における活動でもサイバー空間における活動でも後発組である。米国の能力を恐れる中国は、それら領域における能力の向上を急いでいる。中国の強点は、国内の資源を自由に使用できることだ。中国の企業の活動も人民解放軍の能力向上に寄与していることに留意し、中国の活動を分析する必要がある。

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