提言・論考
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グローバルサウスに働きかける中国
−中国の描く世界と米中「対立」像−

川島 真

はじめに

本稿は、中国のウクライナ戦争に対する認識、政策を考察するが、特に昨今話題になるグローバルサウスとの関係性について考察する 1。世界で秩序観の相剋が見られる中で、先進国側も、また中国側も、グローバルサウスからの支持が得られるのかということを課題にするようになってきている。開発途上国から見れば、アメリカか、中国か、などといった選択を迫られることは決して歓迎できることではない。開発途上国の大半は、自らに有利な条件を各方面から引き出そうとしており、どちらの「陣営」に属するのかといったゼロサム的な選択を好まない。

他方、G20のうちのG7以外の国々や、BRICSの国々などは、世界的にも、地域的にもその影響力を増している。ウクライナ、ロシア双方に対するトルコのエルドアン大統領の働きかけなどを見てもそれは明らかだろう。

中国は新興国や開発途上国の支持を獲得し、その代表として先進国に対峙することを想定している。2022年7月に実施された習近平外交思想の学習キャンパーンにおいても、「中国人民は、極めて多い発展途上国が自らの主権、安全、発展利益を維持、護持するべく行う闘争を支持する。極力国際秩序を安定化させ、発展途上国が国際事務において代表性と発言権を拡大させ、国際関係の民主化と法治化とを推進する」などとされている 2。そのために、上海協力機構、BRICS+1、AIIB、BRICS投資銀行などと言った枠組みが重視されている。中国は、途上国が完全に中国支持とか、アメリカ支持とかいった二分法で対応はしてこないこと踏まえているのだろうか。また、踏まえているとしたら、いかにして開発途上国に対して働きかけているのだろうか。

1. 中露vs先進国？

ウクライナ戦争が長期化する中で、「中露という専制国家vs民主主義陣営という構図」を前提とした議論が多く見られる。しかし、中国としてはそのような構図ではなく、「（中国が主導する）開発途上国＋新興国vs（アメリカの主導する）先進国」というものだ。これはウクライナ戦争を通じて形成された考え方ではなく、習近平政権の既定方針と言ってもいい。

中国は2014年の中央外事工作会議で習近平政権としての対外政策の基本を定めたものと思われる。他国との経済的な関係を基礎にしてウィンウィン関係を築き、それを基礎にしてパートナーシップ関係（夥伴関係）へと発展させ、それが連鎖して朋友圏、やがて人類運命共同体へと昇華するというものだ。その達成時期は2049年と措定されている。これはdemocratic peaceを受け入れず、economic peaceを追求するものだとも言えるが、それだけなくアメリカとの長期的な対向を軸にして、アメリカを中心とする秩序への対抗意識を明確に有したものだった。先進国を時代遅れの存在と見做して、先進国の主導する秩序では現在の一連の問題を解決できないと批判し、アメリカを中心とする安全保障ネットワークにも、アメリカなど先進国が主導する自由や民主主義などの価値にも反対するが、ただ国際連合や（中国の解釈の下での）国際法は受け入れる、というものである 3。中国は、途上国、そして新興国の代表として振る舞い、先進国に対峙していくという自画像、そして将来を描いている。ロシアは、中国にとり最も重要なパートナーシップ関係（夥伴関係）であるが、あくまで新興国の一つである。したがって、中国の想定している世界は、「中露という専制国家vs民主主義陣営という構図」というものでは必ずしもない。

無論、アメリカとの長期戦を覚悟している中国から見て、ロシアは「新興国」として重要な存在である。だからこそ、中露が一枚岩と見えるのも無理はない。2022年2月4日、北京オリンピックの開会式に参加すべくプーチン大統領が訪中して、中露首脳会談が行われて共同声明が発出された。ここでは、「中国側は、ロシアが提出した法的な拘束力を有する欧州の長期的な安全保障に関わる提案を理解し、支持する」と述べたのであった。前述のように中国はアメリカを中心とする安保ネットワークを批判しているので、NATOの東方拡大に反発する。その点ではロシアと共通であり、この共同声明は、ロシアの欧州をめぐる安全保障政策やウクライナ政策について支持を与えていると見ることもできる 4。また、2022年3月の全国人民代表大会の記者会見で王毅外相は、中露関係について、「国際的な情勢がどのように険悪になろうとも、中露双方は戦略的な実力を保持し、新時代の全面的な戦略協力パートナーシップ関係を不断に前進させていく」と述べた 5。

2022年2月25日、中露首脳が電話で会談した時にも、習近平国家主席は、「中国としてはウクライナ問題それ自体の是非曲直から自からの立場を決定したい」と述べるなどして、プーチン大統領の主張に完全に同意したわけではないと受け取れる主張をしたように中国側の記録からは読める 6。これに対して、北京のロシア大使館は2月28日、中露首脳会談の模様をWebサイトに掲載して、習国家主席の発言として、「ロシアの指導者が目下の危機的な情勢の下で採った行動を尊重する」と述べたとしている 7。これは中国側の発表と異なり、あたかも習主席がロシアのウクライナ侵攻に支持を与えたようにも読める。これはある意味で両国間の「齟齬」を示すものだとも言える。

だが、周知の通り、国連総会での2022年3月2日の決議案では、141か国が賛成、５カ国が反対、35カ国が棄権した 8。中国は、反対ではなく、棄権した。また、同年3月24日の国連総会での決議案においても、中国は棄権した。これは、中国がロシアと全く同じ行動をとるわけではない、という姿勢を内外に示そうとしたものと理解できる。ただ、4月7日の国連人権委員会でのロシア排除提案では、中国はカザフスタンなどと共に反対に回った。中国としても他国の動向を観察しながら立ち位置を決めているようだ。そして、2022年7月28日、タシュケントのSCO外相会議で会見した王毅外相とラブロフ外相だが、その際にはウクライナ問題が話題になってはいない。同月のインドネシアでのG20外相会談で王毅外相は、ロシアとウクライナは共に中国の友人だ、とまで述べたのである 9。これは多国間主義の重要性を唱えた演説であり、国際連合を中心とした秩序しか世界になく、陣営的な対立を行うべきではないというコンテキストの中で述べられていた。中国はロシアだけに加担しているわけではない、ということだ。

このように、先進国が「中露という専制国家vs民主主義陣営という構図」でウクライナ戦争と中国との関係を捉えようとするのに対して、中国は「中国が代表する新興国＋開発途上国vs先進国」ということであった。ロシアは、新興国の一つであるとともに最高位のパートナーシップ国でもある。だが、中国にとっての大きな構図としてはロシア、あるいは中露が中心というわけではない。まして、中国には1980年代初頭以来、独立自主の（外交）原則を採用しており、同盟国は持たないことにしている。ロシアは中国の同盟国ではないのである。

2. 中国の描く自画像と将来像：米中「競争」という主旋律と台湾問題

では中国はどのような自画像、将来像を描いているのだろうか。それを最も端的に示しているのが2017年の第19回党大会における習近平の3時間半に及ぶ演説だ。ここで習は、以後、アメリカに挑戦していき、中華人民共和国成立100周年にあたる2049年に「中華民族の偉大なる復興の夢」を実現するなど、長期目標を設定した。

ここで重要なことは、アメリカとの「冷戦的な」全面衝突を想定しているというわけではないことだ。アメリカの安保ネットワークや西側の価値観に反発するものの、それは全面対決ではない。だからこそ、国連を重視し、その国連憲章を実現するものとしての新型国際関係、そしてその新型国際関係を体現するものとして一帯一路を推進する、としているのである 10。国連重視、あるいはたとえ中国の理解に即するものであっても国際法重視などと言っているのは、アメリカなど先進国との「のりしろ」を残しているということである。そして、長期的な競争を、経済面、軍事面などで行なっていき、最終的に2049年にはその競争に勝ち抜くというのが中国の世界観だ。なお、アメリカとの競争に打ち勝つことは台湾問題でも「夢が実現」するということを意味する。ただ、この夢は「中華民族」が実現することになっているので、台湾人もともにその夢を共有するというのが習政権の見立てだ。興味深いのは、米中間で正面衝突は回避しつつ、「競争」を継続して、一面で協力をして、最終的に競争で勝ち抜くという将来像はアメリカもまたほぼ同様だという点だ。そのために、ウクライナでも、台湾問題でも米中が正面衝突するようなことは避けながらも、お互いに有利な環境を作ろうとする。

対外政策の重要な主旋律はアメリカとの関係にあるからこそ、ウクライナ戦争に際してもアメリカとの長期的な「競争」を視野に、中国はアメリカとの関係を重視する。2022年3月18日、米中の電話首脳会談が実施された。ここで習は、米中関係が極めて重要であること、競争を前提とした両国関係を、対話を通じて適切に管理していくことなどを確認し、さらにアメリカ側からも台湾政策についての変更はないとの話もあったとされている 11。そして、中国側の公表記録では、ここに中国の体制転覆をしないとバイデン大統領が述べたことにもなっている 12。

目下、米中間の「競争」の争点は軍事安全保障面、先端技術、民主主義などの価値、そして台湾問題などの地域問題などとなっているが、協力案件としては気候変動、また一部の地域問題が挙げられるようになった。中国の視点から見て由々しき問題であったのは、台湾問題がウクライナ戦争に関連づけて論じられ、ロシアがウクライナに侵攻したのだから、中国が台湾に侵攻すると認識されたことである。

中国からすればウクライナ戦争の有無に関わらず、台湾政策はある意味で一貫しており、そして強化されてきている。2019年1月に習近平は「武力による統一」を口にしたものの、それ以後は武力統一には直接的には言及してこなかった。中国政府にとって台湾統一は言わば国是だが、目下の方針は軍事侵攻に足るだけの圧倒的な軍事力を持ち、それを台湾社会に見せながら、他方でサイバー攻撃やフェイクニュースなどを通じたハイブリッド戦によって、中国との統一やむなしと「諦め」させていくことにある。このことは台湾国防部の2021年度国防報告書でも記されている 13。

中国が台湾を軍事統一するだけの軍事力を有しつつあることは、台湾の国防部長の発言からの明らかだ 14。また、中国は日常的に台湾社会にサイバー攻撃やフェイクニュースを繰り返している。そして、政治家や台湾企業への圧力も強めている。中国政府は民進党、蔡英文政権を「台湾独立派」として認定し、2021年11月には「頑迷な台湾独立分子」として蘇貞昌行政院長、游錫堃立法院長、呉釗燮外交部長を認定し、蘇貞昌と関わりの深い企業で、中国にも進出している遠東集団の中国工場に罰金を課して、中国で儲けたければ中国の台湾政策に従うべきだとした。

ウクライナ戦争は中国の台湾政策を大きく変えたたわけではない。あるとすれば、たとえ「台湾侵攻」計画があったとしても、ウクライナ戦争から教訓を得て、それをより綿密かつ慎重なものへと修正したり、時期的には準備に時間をかけ、より万全なものにするために遅らせたりする機会になったということだろう。他方、ウクライナ戦争が台湾社会に与えたインパクトも小さくない。だが、台湾社会で「台湾有事」があると考える数字は日本のそれよりも低く、またウクライナ戦争を経て、台湾有事に際して米軍が来るであろうとする台湾社会の期待度は、10年前に比べれば30ポイント下がって27％となった 15。バイデン大統領の5月の日本での失言もこれに関連しているとも考えられる 16。

中国が民進党や蔡英文を独立志向があると認定し、多くの政治家を「頑迷なる独立分子」と見做したことは、諸外国と台湾との関わり方にも影響を与えている。蔡英文政権に接近するような動きは全て批判対象となったからだ。元々、中国には一つの中国原則があり、各国にはそれぞれの一つの中国政策があり、たとえば立法府同士の交流などは中国側も黙認してきた。日本の自民党と台湾の国民党との交流などがその代表例である。ペロシ下院議長の訪中もまたその一例だ。中国としては、蔡英文政権に「人権活動家」として知られるペロシ下院議長が接近することを好ましく思わない。しかし、その「不満」の矛先は台湾の蔡英文政権に向けられているのであってアメリカではないことには留意しておきたい。

ペロシ下院議長の台湾訪問は、言わば台湾の民主化、人権への配慮、そしてテクノロジーに配慮したものであった。女性総統である蔡英文との会見、TSMC董事長との会談、そして人権博物館訪問が実施された。台湾の228事件や白色テロに関する移行期正義などを評価してのことであろう。そうした意味では、軍事安全保障協力を目的とした台湾訪問というわけでもない。

だが、中国側のとった政策は、言わば日常的におこなっている軍事力の誇示＋ハイブリッド戦の度合いを強めたものとなった。軍事安全保障面では、台湾海峡の中間線を越え、また東側に向けて台北の（高層）上空を通過するミサイルを撃ち、また政府のウェブサイトを麻痺させ、民間のコンビニの掲示板をハックし、多くのフェイクニュースを流した。日常的におこなっていることを数倍で表現したということでもあろう。そして今後、「原状回復」することはなく、アメリカ側の挑発を理由として、中国は従来よりも強い圧力を恒常的に台湾にかけることになろう。そのアメリカに対しては八項目の制裁を発したが、これらについては恒常化せず、今後の状況に応じて調整されていくであろう。

いずれにせよ、中国は台湾への軍事演習を通じて、世界の目線をウクライナから米中対立に向けることに成功した面もある。今後次第に中国はウクライナ以前の状況へと回復させていくように行動するであろう。

3. グローバルサウスに働きかける中国

前述の通り、中国が想定しているのは、「中国が代表する開発途上国＋新興国vsアメリカが代表する先進国」というものだ。だからこそ、中国にとっては途上国や他の新興国の動向が気になるところである。だからこそ、国連総会でのアメリカ提案に途上国の多くが賛同すると、中国も圧倒的少数派の「反対」側には回れなかったものと思われる。

その中国は、新型肺炎感染症が世界に広がる中でマスク外交、ワクチン外交などが展開していたが、ウクライナ戦争に伴って米中対立が一層激しくなり、かつエネルギーや食料状況が悪化する中で中国は支援に乗り出している。

2022年3月から4月にかけて、王毅外相は安徽省に陣取り、アフガニスタン隣国外相会議を開催し、また各国の外相らを招いて会議を開いた。また、東南アジアのフィリピン、タイ、ミャンマー、インドネシアの外相らと安徽省で相次いで会談した 17。これらの国々は皆3月2日の決議案で賛成、すなわちアメリカ側に回った国々であった。そして、ベトナムやラオスが棄権する中で賛成したカンボジアについては、5月に入ってからオンラインでの外相会談を実施し、そこで王毅外相はおよそ次のように述べたと一部メディアが報じた。

「現在、ロシア・ウクライナ危機の影響は継続して外部世界に影響を与え、NATOは多くのアジアの国家を自らの陣営に加えようとする野心を一層あからさまにしてきている。今回のロシア・ウクライナ間の衝突に関しては、アジアの大多数の国は依然独立自主の外交政策を保持、欧州の諸国のようにアメリカに追随し、アメリカの圧力に屈してその片棒を担ぐようなことはしていない。地政学的にアメリカと比較的距離が遠いだけでなく、中国を含む多くのアジア諸国は長きにわたって国際社会において世界平和と発展の中心的な存在であった。特に14億の人口を擁する中国がそうであった」 18。王毅外相は『アジアの時刻』が到来したなどとし、そしてそのアジアの国は「独立自主」であるべきだと言ったというのである。これは特定のメディアだけが報じたものであり、事実か否かの確認が難しい。だが、これが事実であれば、明らかに一連の国連決議でアメリカ側に与したカンボジアに対する牽制であるが、いずれにせよ外交部の公式発表を見ても、カンボジアに対して「アジア」を意識して、アメリカに追随しないように求めていることは確かだろう。

5月末、王毅外相は太平洋諸国を訪問し、太平洋10カ国との間で貿易や安全保障に関する包括協定を締結しようとしたが失敗したとの報道が日本などであった。王毅外相の訪問は、第二回中国−太平洋諸国外相会議に参加するためであった。中国は、「中国関於同太平洋島国相互尊重、共同発展的立文件（中国の太平洋諸国と相互尊重、共同発展に関する文書）」を発表し、そこに多くの協力案件を書き込んだ 19。また、確かに中国と10カ国との共同文書はないものの、二国間の協力などは数多く合意に達しているし、新たに6つの協力プラットフォームを立ち上げると発表した。それは、緊急物資の貯蔵庫、気候変動協力センター、貧困削減と発展協力センター、農業協力モデルセンター、防災減災協力センター、真菌草技術モデル協力センターなどである 20。また、ソロモン群島では物議を醸している安保協力についての説明を行い、主権尊重のほか、この協力が治安維持など生活環境それ自体の安全保障のために行われることなどを王毅は強調した 21。台湾との承認問題、また米豪日との競争が存在する太平洋地域では中国は比較的慎重に協力を模索している。

6月上旬、王毅外相はカザフスタンのヌルスルタンを訪問し、中国＋中央アジア五カ国外相会談に臨んだ。ここで4つの共同文書が発表されたが、そこにはデジタル安全保障に関する文書が含まれていた。また、王毅は六カ国の間で相互に「核心的利益」の相互尊重について共通認識を得たとしている 22。中央アジアの国々はアメリカや先進国に接近する可能性は低く、比較的安心して関係性を築ける相手であり、だからこそ核心的利益という敏感な用語を用いながらコンセンサスが形成できるのだろう。

6月下旬、BRICSの首脳会議がビデオで行われた。ここで習近平国家主席は、先進国に関して、「一部の国家が軍事同盟を拡大して、絶対的な安全を獲得しようとしている」とし、「他国の権益を軽視し、唯我独尊を貫こうとしている」と強く批判した。またBRICSについては、「決して閉鎖的なクラブなどでもないし、排外的な小さいサークルでもない」として先進国との違いを強調して、「互いに助け合っていく大家族であり、ウィンウィンのパートナーである」などと自らを称えた。このほか、開発途上国への支援や廈門イノベーション基地構想などについて取り上げていた 23。

7月上旬、王毅外相はASEAN事務局にて講演を行なった。そこで王毅は、アジアはグローバルガバナンスの協力の模範になっており、世界から注目が集まっているなどとし、「グローバルガバナンスは『アジアの時刻』を迎え、国際社会は『アジアの声』を必要としている」などと述べた。そして、この地域の地域主義については「和平、発展、自主、包容」を求めたのであった。王毅が5月にカンボジアに対して述べたことがここで繰り返されていることに気づくだろう。「自主」はまさにアメリカなどに追随しないことが含意されているが、そこにはアジアを自らが意義づけ、方向づける中国の姿勢が見てとれる。

7月から8月になると、中国は次第に対外的な経済協力を推進し始める。7月末のSCO外相会談では先進国批判を行なった上で、エネルギー、サプライチェーン、持続可能性ある発展などについての協力を提起し、一帯一路を質量ともに深化させるとし、8月のASEAN外相会議では、ASEANを陣営間の草刈り場にすることに反対しつつ、カンボジアなどへの支援とともに、来訪していたトルコやギリシャ、バングラディシュの外相などと王毅外相が会談して、それぞれに個別の支援や協力について提起していた。

中国はG20、BRICS、SCO、ASEAN+中国、中国＋中央アジア五カ国、中国＋太平洋島嶼10カ国などの多様な枠組みを通じた「開発途上国＋新興国」に対する外交を展開しているが、そこではアメリカや先進国による「陣営」形成に反対しつつ、同時にそうした国や地域がアメリカ側に寄り添うことを牽制している。無論、その際にはさまざまな協力案件が提起される。また、各地域に対するアプローチはその地域のアメリカなどとの関係に応じて異なっており、強弱、濃淡をつけている。そして、個々の国との二国間関係も重視され、それぞれに応じて援助や協力が模索されている。中国は自らの想定する「（中国の主導する）開発途上国＋新興国vs（アメリカの主導する）先進国」という対立像を実現しようとしている。このような像が簡単に現実になるわけではないにしても、中国側が行っている外交の方向性として理解できるだろう。

おわりに

本稿の冒頭で、筆者は「中国は、途上国が完全に中国支持とか、アメリカ支持とかいった二分法で対応はしてこないこと踏まえているのだろうか。また、踏まえているとしたら、いかにして開発途上国に対して働きかけているのだろうか」という問いを掲げた。

これに対する答えを述べれば、開発途上国や新興国が二分法で対応しないということを中国が把握しているか否かは別にして、少なくとも相手が二分法に基づいて、アメリカや先進国を支持するような事態は防ぐ、あるいは少なくとも中国に理解を示すように、相手に応じて働きかけている、ということだろう。これは、いかにして働きかけをしているのかということにも関わる。中国は経済力を利用しながら、アメリカや先進国を牽制し、開発途上国や新興国に必要な支援や協力を個別に行いながら、地域の特徴を踏まえたアプローチをとっていると言える。太平洋諸国に対しては相手に寄り添いながら、東南アジアには比較的強く「自主」を求め、中央アジア諸国とは核心的利益にまで踏み込んだコンセンサスを形成する。このような地域別の柔軟な対応が昨今は顕著に見られる。他方で二国間関係もそれぞれ相手に応じた関わり方をするようになっており、また対象も極めて多く、中国の世界への働きかけは奥行きや広がりが増していることに気付かされる。

しかし、容易に気がつくことだが、中国の働きかけがどれほどの効果をもたらすかは未知数である。先進国も中国も共に新興国や開発途上国からの全面的な支持を得られることはあまりなく、また、かと言って新興国や開発途上国が第三の極になるというわけでもない。中国の描く世界も簡単には実現しないのである。

（東京大学教授）

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