提言・論考
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建国百年における中国軍事力

はじめに

防衛白書「令和7年版 日本の防衛」によれば、中国が保有する海軍艦艇は690隻237万トン、作戦機3,370機に上る。中国陸軍は近代化を進め、兵力は96万人である。その他、中国には4万人からなる海兵隊を有している。それでも中国は満足していないようだ。さらに中国は、急速な艦艇建造および航空機の開発製造を継続している。

2025年4月2日に中国人民解放軍が実施した「海峡雷霆2025」演習の際に東部戦区司令部統合メディアセンターが作成した動画の中に、中国人民解放軍が想定する現在の戦闘様相の一端が見て取れる。東部戦区司令部統合メディアセンターは複数の動画を公表しているが、中でも「黒神話」というゲームをモチーフにした動画は、同ゲームに登場する孫悟空が用いる術になぞらえて、人民解放軍が求める、あるいは有していると主張する能力の一端を示している。

例えば、分身の術に例えて多数の航空機やロケット・ランチャーが示され、隠身の術に例えてJ-20戦闘機、J-35戦闘機、ステルス無人水上艦艇および潜水艦などが映し出されている。この動画を見る限り、中国は圧倒的な数と能力で敵を抑え込む戦術を取ると考えられる。しかし、動画は他者に見せるために作成されたものであり、中国が見せたい人民解放軍の姿を描くために、誇張や欺瞞が含まれている可能性がある。そこで、本稿では、実際の中国の軍備増強や組織改編の状況を概観する。

１ 中国人民解放軍発展の状況

軍事ドクトリンの変更およびそれに伴う戦闘様相の変化は、陸海空軍それぞれの武器体系だけでなく、軍というシステム全体の再構築を強いるものだ。特に、陸海空軍による統合作戦を念頭において構築された先進国の軍隊においてはなおさらである。しかし、いずれの国も、武器システムを含む軍事装備品を一度に入れ替えることはできない。一般的に、武器システムはそれぞれが非常に高価であり、一度就役した主戦車等の戦闘車両、艦艇、航空機、弾道ミサイルなどは20年以上運用されるからである。

軍事ドクトリン等に変化が生じた場合でも、その変化は段階的にしか軍事装備品に反映されず、軍事ドクトリンの実現には時間を要する。そのため、特定の国の軍事力の将来像を推測するに当たって、その軍隊がどのような発展の経緯を辿っているのかを理解することは重要である。ここでは、中国人民解放軍の発展の経緯を概説する。

1927年8月1日の南昌蜂起によって誕生した、中国共産党が領導する人民軍隊を特徴づけるものの一つが「草履履き（徒歩化）」であるとされる。中国人民解放軍の前身である中国工農紅軍は全て陸軍であり、その95％以上が歩兵であった。その歩兵の機動、作戦行動、補給等は全て人力に頼っていたのである1。1950年代半ばになって人民解放軍は「騾馬化」を実現する。騾馬化とは、将軍を始めとする指揮官は馬に騎乗し、兵士は徒歩で作戦を行い、重々量の武器装備品等は牛馬等の家畜によって輸送するというものである。

1969年2月、中国人民解放軍は「摩托（モーター）化」された歩兵師団の建設を開始した。摩托化とは、歩兵や装備を全て、エンジンとゴムタイヤを備えた車両に搭載して部隊を展開することである。さらに中国は、並行して、主として陸軍の「機械化」を進めてきた。機械化された部隊とは、主要装備が内燃機関やタービンで駆動され、移動手段として履帯（キャタピラ社の登録商標である「キャタピラ」という呼称が用いられることもある）を備え、さまざまな先進技術に対応できる能力を特徴とする高度な合成部隊を指す。1955年4月、中国は初の機械化された部隊を設立し、1984年4月に機械化された集団軍が誕生した。

そして中国は「情報化」に着手する。2002年10月に開催された第16回中国共産党全国代表大会（16大）において、人民解放軍は「機械化と情報化建設という二つの歴史的任務を努力して完成させ、我が軍近代化の飛躍的発展を実現させる」という戦略目標を示した。情報化された部隊とは、デジタル電子情報装備と機械化された戦闘兵器を主装備とし、指揮統制、情報偵察、早期警戒探知、通信、電子対抗手段と主力戦闘兵器の間の情報統合を実現し、将来の情報戦の要求に適応した新世代の戦闘部隊を指している。

2017年の第19回中国共産党全国代表大会（19大）において行われた報告の中で習近平中央委員会総書記は、「世界の新たな『軍事における革命（RMA）』の発展動向と国家安全保障の要求に適応し、軍事力発展の質と効率を高め、2020年までに機械化を基本的に実現し、情報化を飛躍的に進展させ、戦略的能力を飛躍的に向上させる。国家の近代化プロセスに合わせ、軍事理論、軍事組織、軍人、兵器の近代化を全面的に推進し、2035年までに国防と軍事力の近代化を基本的に実現し、今世紀半ばまでに人民の軍隊を世界一流の軍隊にすることを全力で勝ち取る」とした。

しかし、2019年版の中国の国防白書『新時代的中国国防』では、「中国の特色ある軍事変革は大きく進展したが、機械化の任務は未だ完了しておらず、情報化レベルも向上させる必要があり、軍の近代化レベルと国家安全保障の必要性の間には依然大きな差があり、世界の先進軍事レベルとの格差も依然大きい」として、引き続き、機械化と情報化を進める必要性が示された。

同国防白書はまた、「人工知能、量子情報、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、モノのインターネット（IoT）などの新興技術が加速度的に軍事分野に応用され、軍事競争の状況が歴史的に変化しつつある。情報技術を核とする軍事ハイテクは日々変化し、武器の長射程精密化、智能化、ステルス化、無人化の動向がより明確になり、戦争形態は情報化戦争へと加速的に変化し、智能化戦争の兆しが現れている」と述べ、以降、中国人民解放軍は積極的に智能化を追求していく。現在、中国が積極的に多種の自律型無人機を開発し、戦闘に用いようとしているのは、この流れに沿ったものである。

２ 核兵力

中国は、建国以来、一貫してロシア（ソ連）や米国の中国に対する軍事行動を抑止する努力を続けてきた。中国は、自らが経済成長し、国際社会における影響力が向上させるにつれ、中国を脅威と見始めた米国が中国の行動を妨害するために軍事介入するのを恐れている。しかし、中国の軍備増強の主要な目的の一つが米国やロシアを抑止することであるにしても、それは中国が自ら軍事力を行使しないことを意味しない。現在、中国が米国を抑止したいと考えるのは、「台湾統一」の最終手段として台湾に軍事侵攻しても米国が軍事介入するのを避けたいと考えるからである。

米中間の対立がエスカレートした際に、最終的な抑止力となるのが大量破壊兵器である戦略核兵器である。中国は、建国当初、経済力が十分でなく、通常兵力と核兵力の双方を増強することが難しかった。そのため、核抑止力の増強に国内資源を集中させた。1960年2月、中央軍事委員会は「両弾（ミサイルと原子力爆弾）を主とするが、ミサイルを第一とする」方針を明確にして核弾頭搭載ミサイルの研究開発を進め、1966年に「両弾結合（核弾頭をミサイルに搭載すること）」試験に成功した2。

それでも中国は米国に対する核抑止が破綻するのではないかと恐れてきた。核弾頭や大陸間弾道ミサイル（ICBM）発射機の保有数について、米国との間に大きな乖離があると認識されてきたからである。SIPRIによれば、2025年6月現在、米国の配備核弾頭数は1,770発、中国の配備核弾頭数は600発である3。抑止は認識の問題である。中国の戦略核兵力が十分に強力であると米国が認識すれば中国の対米抑止が働くが、中国は米国の認識を正確に知ることはできない。中国は米国との相対的な核兵力に自信を持てず、核弾頭の多弾頭化、ICBM サイロの建設などを進めてきた。

核兵力の顕著な向上にもかかわらず、中国の核戦略および核軍縮に対する公式の立場は一貫している。核兵器の先制不使用と非核兵器保有国に対する核兵器の不使用を掲げ、核兵器の廃絶を支持しているのだ。中国国務院新聞弁公室が2005年9月1日に発表した軍備管理・軍縮白書である『中国の軍備管理、軍縮、不拡散の努力』は、「核兵器を完全に廃絶し、核兵器のない世界を実現することは、国際社会の悲願であり、中国の目標でもある」とし、「核兵器の完全禁止と完全破壊という目標が達成されるまでの間、核兵器国は、核兵器を最初に使用せず、非核兵器国および非核兵器地帯に対する核兵器の使用または使用の威嚇を無条件に控えることを約束する必要がある」としている4。

現在でも中国の公式の立場は同様である。2025年6月16日の外交部定例記者会見において、SIPRIが報告した中国の配備核弾頭数について質問を受けた外交部報道官は、「私は、中国が一貫して自衛のための防御的な核戦略を堅持し、終始、核兵力を国家安全保障に必要な最低水準に維持し、軍拡競争に参加しないことを強調したい。中国は、いかなる時でもいかなる状況下でも核兵器の先制不使用政策を守り、非核兵器保有国および非核兵器保有地域に対して核兵器を使用したり核兵器を用いて威嚇したりしないことを無条件に約束している」と、従来の主張を繰り返した。

一方で、核兵器の増加および能力の飛躍的な向上に伴い、中国の核戦略は「最小限抑止」から「相互確証破壊」に変化したという議論がある。しかし、中国が、米国が作り出した「最小限抑止」や「相互確証破壊」といった概念に基づいて核兵力を整備してきたとは限らない。中国の「核兵力を最低水準に維持する」という主張には、「国家安全保障に必要な」という条件がついている。中国は、一貫して、自らの安全保障に必要な水準の核兵力保有を追求してきたのであり、問題は中国指導部の「国家安全保障に必要な水準」の認識にある。

中国共産党は、毛沢東は、「貴方が原爆を使えば、我は手榴弾を使う」という英雄的精神と「原爆を作る」という先見の明を併せ持っていたと言う。これは、毛沢東の戦略的敵軽視と戦術的敵重視を明確に反映した、革命的ロマン主義と合理的実用主義の弁証法的な統一であるというのだ5。また、毛沢東は、1965年1月23日、取材に答えて「敵が保有するものは我々も保有しなければならない。敵が保有しないものも我々は保有しなければならない。原爆は保有しなければならず、水爆は急がねばならない」と述べている6。

また、前出の軍備管理・軍縮白書では、「最大量の核兵器を保有する二国は、核軍縮について特別かつ優先的な責任を負っている」としている。中国は、米国とロシアが先に核軍縮をすべきであると主張するのだ。これらの言説から、最小限抑止であるか相互確証破壊であるかを問わず、中国は一貫して米国と同等以上の核兵力の保有を追求しているとも考えられる。米国防総省は、中国が2024年半ば時点で運用可能な配備核弾頭を600発以上保有しており、2030年までに1,000発を超える運用可能な核弾頭を保有すると推定している7。中国は年間100発以上の核弾頭を生産していることになり、米国防総省は、中国は少なくとも2035年まで現在の生産ペースを維持すると見ているが、それでも中国が保有する配備核弾頭は1500発程度にしかならず、現在の米国の配備核弾頭数である1770発に届かない。さらに米国の保有核弾頭の総数は5328発（2024年1月現在）とされ、中国が1500発程度の核弾頭数で満足しない可能性が高い。

衛星画像を分析したところ、中国は、ロケット軍の弾薬庫とされる地域で拡張工事を進めており、核弾頭数の増加に対応しようとしていると考えられる。また、ロプノール核実験場では現在も整備が行われていることが、衛星画像によって確認されている。中国は多弾頭化を発展させるために弾頭の小型化が必要であり、そのために必要とされる核実験のための準備であるとも捉えられる。現段階で2049年の中国の核兵力を推測することは難しいが、中国の経済、社会状況が許す限り、中国は米国と同等の核兵力の構築を目指す可能性がある。

３ 通常兵力の増強

中国は、たとえ核兵力で米国に追いついたとしても、それだけで満足するとは限らない。中国は、現段階で、米国には通常兵力で中国本土を攻撃する能力があり、中国には通常兵力で米国本土を攻撃する能力がないことを意識している。例えば、2025年6月7日および8日に中国の2隻の空母が、それぞれ南鳥島および沖ノ鳥島周辺の排他的経済水域に侵入し、沖ノ鳥島周辺海域では日本のP-3C哨戒機に中国空母「山東」の艦載機が異常接近したことに対して日本が抗議した際、中国メディアの質問を受けた中国の軍事専門家は、「米海軍は既に第三列島線や第二列島線と呼ばれる線を越えて西太平洋、さらには中国に面する海域にまで進出し、軍事演習、偵察哨戒、武力誇示を行ってきた」と指摘し、中国が太平洋に進出することを正当化している8。

中国は、対米核抑止が破綻する可能性を恐れて、通常兵力を増強しようとしているように見受けられる。中国は、核兵力と通常兵力の双方で米国に並ぶことを目指しているということである。中国が米国本土を通常兵力で攻撃するとすれば、あるいは通常兵力で米国を威嚇しようとすれば、通常弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル（ICBM）、空母艦載機もしくは水上艦艇から発射される巡航ミサイル等を用いることが予想される。

中国がICBMに通常弾頭を搭載する可能性については、2020年代初頭から指摘されている9。しかし、ICBMに搭載した通常弾頭で、実際に米国本土を打撃することは難しいだろう。中国がICBMを発射した時、米国がその弾頭が核弾頭であるのか通常弾頭であるのかを識別することは難しく、相互確証破壊の考え方に基づけば、米国が中国に対してICBMを用いて反撃する可能性が高いからである。一方で、通常弾頭を搭載したICBMは、前述した理由により、核弾頭を搭載したICBM同様の抑止力を持つ可能性がある。

中国が実際に通常兵力をもって米国本土を攻撃しようとすれば、空母艦載機もしくは水上艦艇から発射される巡航ミサイルを用いるのが妥当だろう。中国は、ラテン・アメリカおよびカリブ諸国にデュアルユース（軍民両用）の港湾を建設する支援等を行なっており、米国は危機感を強めている10。

中国海軍は、空母の建造を急いでいる。2012年9月には中国初の空母「遼寧」が就役し、2019年12月に中国2隻目となる空母「山東」が就役した。中国は、「山東」を中国初の国産空母と称している 。さらに、2022年6月17日、電磁カタパルトを装備し、中国海軍で初めてCATOBAR（Catapult Assisted Take Off But Arrested Recovery）方式を採用した空母「福建」が上海江南造船所で進水した。2025年8月3日に中国中央電視台が放映した「攻堅－矢志強軍向一流」という番組の中に、同艦が電磁カタパルトを用いてJ-15艦載機を射出する試験の様子が映し出されており、海上公試が最終段階にあると考えられる。

空母「遼寧」および「山東」はカタパルトを装備しておらず、スキージャンプ台を用いて艦載機を発艦させるため、艦載機は燃料や弾薬を満載できないと言われる。中国は、「福建」以降のカタパルトを装備した空母を中心に軍事作戦を計画したいと考えるだろう。中国海軍はこれまでも、最初の1隻あるいは2隻を建造した後、しばらく運用して不具合を抽出し、それら不具合を解決してから2番艦あるいは第２バッチ以降の同型艦を複数建造してきた。

特に「福建」は、中国海軍にとって初めて電磁カタパルトを採用した艦艇であり、中国4隻目の空母を建造する前に、海上公試および就役後の運用の中で種々の検証が行われると考えられる。武漢市に所在する中国船舶集団701研究所内の通称「空母ビル」では、空母の構造や各種装備品の検証を行っているが、衛星画像で確認すると、2025年4月現在、同ビルはカタパルト装備型の空母の形状に改修中であり、4隻目となる空母にはまだ検証すべき事項が残っていることを示唆している。

空母打撃群を構成する他の水上艦艇の建造も進められている。空母打撃群の中で、空母を護衛する主力となるのが055型駆逐艦である。満載排水量が1万3000トンを超えるとされる055型駆逐艦は、2014年12月に建造を開始したとされ、中国は「055型駆逐艦の作戦任務は、これまでの中国海軍の駆逐艦が列島線内または限定的に列島線を突破して作戦任務を遂行するのとは異なり、第二列島線を越えた遠洋、さらには全地球的な戦略に貢献する」とし、「空母戦闘群に配備される主要駆逐艦となる」としている11。これは、055型駆逐艦が空母に随伴して米国周辺海域を含む世界各地に展開することを想定しているとも捉えられる。

４ 台湾「統一」のための軍事作戦

中国人民解放軍の軍備増強の主たる目標は、米軍と同等以上の軍事力となることである。中国の米国に対する態度を見れば、少なくとも現段階で、中国は米国との戦争を望んでおらず、米国と同等以上の軍事力を以て、中国の軍事行動に対して米国が軍事介入しないように抑止することを目指していると考えられる。中国が米国の軍事介入を最も懸念する事態は、中国による台湾軍事侵攻である。

中国も台湾統一のための軍事作戦を複数計画していると考えられるが、全面的な着上陸作戦は損耗率が高く、最終的な手段と考えているだろう。しかし、たとえ中国が大規模な軍事衝突を伴わずに台湾統一の実現を望んでいるとしても、全面的な着上陸作戦を実行する能力を備えておく必要がある。中国がいくら軍事的圧力をかけても、台湾が中国の軍事的能力を低く評価すれば、その圧力は効果を持たないからだ。最終的な手段まで実行する能力があることを示せて初めて軍事的圧力を含む種々の圧力が効果を持つ。

2025年4月、米国メディアが、着上陸作戦に使用すると考えられる複数の中国の特殊なバージの存在を報じた12。しかし、艦の形状から考えて、これらバージは、着上陸する海岸を打撃可能な台湾軍の部隊を制圧してからでなければ使用できない。これらバージは、直上陸を果たした後に、重々量の車両や補給物資を上陸させるために用いられると考えられる。

中国は、これらバージを用いて多数の主戦車や装甲車を上陸させる前に、海岸近傍の台湾軍部隊および空軍基地等を制圧しなければならない。中国は、自軍の損耗率を軽減するためにも、この段階から無人機を多用すると考えられる。中国が目指すのは智能化戦争である。智能化戦争とは、主として無人機をAIと結合した致死性自律型無人機（LAWS: Lethal Autonomous Weapon Systems）を用いた戦闘様相を示す戦争を指す。

中国は2010年代半ばから智能化戦争を意識しており、自律型無人機によって戦闘様相は「人対人」から「機械対機械」「機械対人」へと変化し、自律型集団突撃戦、自律型潜伏突撃戦、自律型領域横断機動戦、自律型認知コントロール戦などの戦い方が採用されるという13。2024年の珠海航空ショーでは、「空中空母」とも呼ばれる「九天」という翼長25メートルの大型無人航空機（UAV）が公開された。「九天」は多種のミサイルや爆弾を搭載できるだけでなく、機体内部に格子状に区切られた格納庫を有し、機体側面から、100にも上る小型UAVを発進させたり、巡航ミサイルを発射したりできる。大量の自律型無人機による集団での襲撃は、中国が言う自律型集団突撃戦の戦闘様相の一つであろうl

2025年9月3日に挙行される「紀念（記念）中国人民抗日戦争勝利曁（および）世界反法西斯（ファシズム）戦争勝利80周年」大会にも、新たな無人機が複数登場すると見られる。すでに、予行演習の際に、覆いを被せた複数の新型UAVや大型の魚雷のような形状をしたUUV（無人水中機）が確認されている。魚雷のような形状のUUVは背面にフックをかけるためと思われる金具が４カ所に取り付けられており、魚雷発射管から発射するのではなく、水上艦艇などからクレーンで海中に放出することを想定しているようだ。そうだとすると、同UUVは即時の攻撃に用いられるのではなく、自律して行動し、自ら攻撃目標とタイミングを判断して攻撃する兵器である可能性がある。こうした戦い方は、やはり中国が言う自律型潜伏突撃戦の戦闘様相の一つとも考えられる。無人の陸上戦闘装甲車両も、トラックに搭載されて予行演習を行なった。

おわりに

本稿では、中国の軍備増強の趨勢の一端を明らかにしてきた。中国は、「中華民族の偉大な復興」を完成しなければならない2049年（建国百年）までに、米国の軍事介入を抑止・阻止するための複数の空母打撃群や高性能の戦略原潜・攻撃型原潜を保有するとともに、自軍の損耗率を下げて台湾侵攻を成功させるための大量の各種無人機を装備すると考えられる。しかし、現在の軍備増強の趨勢がいつまで継続するのかは明らかではない。それは、どれだけの兵力を有し智能化を進めれば中国が安心できるのかが不明だからである。

また、中国人民解放軍には、運用面から見て、必ずしも効率的でないように思われる部隊改編なども見られる。中国は、2015年12月から部隊改編を進め、フォースユーザーとフォースプロバイダを区分して指揮系統を整理し、各種機能の統合などを行なってきた。その一環として、宇宙における作戦、サイバー空間における作戦、電波空間における作戦、心理戦などの機能を統合した戦略支援部隊が設立された。

しかし、2024年4月19日には、中国人民解放軍情報支援部隊の成立大会が開かれたと報じられ、同報道は「同時に、戦略支援部隊の部隊番号は抹消され、軍事宇宙部隊とサイバー空間部隊の指導・管理関係もそれに応じて調整される」とした14。せっかく統合した機能を改めて分割したのだ。しかも、大々的に報じられたのは情報支援部隊のみであり、一方で、軍事宇宙部隊とサイバー空間部隊については、指導・管理関係が調整されるとだけ触れられたのである。なぜ、戦略支援部隊が解体されたのか、情報支援部隊と軍事宇宙部隊・サイバー空間部隊の扱いに差があるか、は疑問として残る。

戦闘様相の変化に合わせて部隊の改編が必要だった可能性もあるが、習近平氏の権力掌握に関わっている可能性もある。一連のロケット軍および装備部関連の汚職事案に、戦略支援部隊内の宇宙システム部が関わっていた可能性も考えられるのである。部隊運用上の課題があるにしろ、政治的な課題があるにしろ、人民解放軍の態勢は整っていないということである。武器装備品の増強だけでなく、人民解放軍にどのような課題があるのか、いつまでにその課題が解決できるのか等についても分析を続けなければならない。

（小原凡司 笹川平和財団上席フェロー）

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